Black mailU-5
「それは無理よ。 世界中にネットワークを張る情報部を私用に使うなんて…」
拒否の言葉を琢磨は一蹴する。
「大丈夫ですよ。 この情報が世に流れれば激震となり、ヤマト証券は大ダメージを負います。
そうなれば、貴方が代表を務める会社にとってもプラスをもたらすでしょう。 良い取引とは思いませんか?」
流れるようなセールストークに、アルコールで麻痺した恭香の思考は肯定の決断を下してしまった。
「…分かったわ。 調査だけすれば良いのね」
「いえ。 それが分かった時点で情報をニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストといった一流紙にリークしてもらいたいんです」
恭香の顔が驚きの表情に変わった。
「…貴方、何を考えてるの?」
「もちろん。 飯島と岡野への復讐ですよ」
そう言って笑う琢磨は顔を歪ませる。 その表情は残忍さを湛えていた。
───
それから1時間ほどして2人は店を出た。
「大丈夫ですか?恭香さん」
「…う…ん……」
かなりの量を飲んだ恭香は、琢磨に支えられていた。 受け入れ難い事実を昇華させたい思いが彼女を酒に走らせてしまった。
「帰りますよ。 自宅は何処です?」
琢磨が彼女に問いかけるが、恭香の意識は、すでに飛んでいた。
「まいったなぁ…」
琢磨は仕方ないといった表情で、側に停まっていたタクシーに恭香を押し込むと、自身も乗り込んだ。
そして、運転手に行先を告げると、タクシーは勢いよく本線へと流れて行き、繁華街を後にするのだった。
2人を乗せたタクシーはビジネス街へと入ると、巨大な建物の玄関前に停まった。
インペリアル・ホテル。
「ありがとよ…」
運転手に支払いを済ませた琢磨は、意識の朦朧となった恭香を支えてカウンターへと向かった。
「おかえりなさいませ」
カウンターのホテルマン達は、彼らを見つけると鍵を差し出そうとする。
「彼女と飲んでいたら酔ってしまってね。 私の部屋で休ませたいんだ」
琢磨は鍵を受け取りながらホテルマンへ事情を話すと、エレベーター・ホールへと歩いて行った。