Black mailU-2
(何故、今頃になって…… )
外の景色を眺める恭香は思考を巡らせる。
同じ証券会社としてヤマト証券の噂は色々と聞いていた。 最近では石油と穀物の先物取引でかなりの利ザヤを稼いでいると。
しかも、そうなるよう仕向けたたのは恭香自身だった。 2年半前、彼女がヤマト証券に迎え入れられた際、飯島に進言したのだ。
〈アメリカのサブ・プライムローンはいずれ破綻する。 その時、世界中の投機マネーは必ず石油と穀物に流れ込む〉と。
飯島はすぐにアクションを起こしたと聞いていた。 その結果が、今に至るわけだ。
そのヤマト証券の事で話があるという。 しかも、相手は探偵社。 恭香には、今ひとつ理由を計りかねていた。
───
2日後。
「支社長。 荒木探偵社の朝丘様がお見えになりましたが…」
田神が来社を告げに来た。 恭香は〈お通しして〉と言って、席を立つ。
すると、ひとりの男が入って来るなり恭香に言った。
「やぁ、恭香さん。 お久しぶりですね」
彼女には分からなかった。 かつての風貌と、あまりにもかけ離れていたからだ。
「…あの、何処かでお会いしました?」
恭香の言葉に男は口の端を上げて笑うと彼女に近寄った。
「いやだなぁ。 よく見て下さいよ。 かつては肌を合わせた仲じゃないですか」
男の目を見た瞬間、恭香の背中に冷たいモノが走った。
だが、それは次の瞬間、湧き上がる憎悪へと変化した。
「…アナタ!あ、朝霧…」
「ご名答。 いやぁ、ようやく分かってくれましたか」
朝霧琢磨 31歳。
かつての恭香の部下。
「…あ、アナタ、何しに来たの!」
恭香は思わず叫んだ。 すると、琢磨は〈まあまあ〉と言いながら、
「言ったでしょう。 ヤマト証券の件で話があるって…」
「そっちにあっても私には無いわ!さぁ、帰ってちょうだい!」
怒り心頭の恭香に対し、琢磨は肩をすくめて言った。