Black mailU-12
「ああ…失礼。 お話の件、基本的にはオッケィです」
「そうですか!安心しましたわ。 では、本日20時、〇〇のヨットハーバーに来て頂けますかしら?」
「分かりました。 伺います」
岡野は受話器を元に戻した。
「誰からの連絡なんです?」
一転して表情が良くなった岡野を不審に思い、そう聞いたのは前の席に座る財津という営業課長だった。
スター証券の社員で、何かと岡野達、元ヤマト証券社員の不備を見つけては上の連中に進言したがるハイエナのようなヤツだ。
「ちょっと生命保険の話でね…」
「大事な勤務中に業務外の話ですか…」
財津は侮蔑の眼差しで岡野を見つめ、わざとらしいため息を吐いた。
「本当の事を言ったまでですよ。 ある事無い事を役員方にでも進言でもされちゃたまったモンじゃありませんからね…」
財津の顔が赤らんだ。
(なんだコイツ…いつもはビクついてるクセに )
財津がそう思うほど岡野は堂々としていた。 もはや、気持ちはスター証券などには無かった。
───
夜8時。 〇〇ヨットハーバー前に岡野は現れた。
その姿を映し出すようにクルマのヘッドライトが点灯し、女性らしいシルエットがクルマのドライビング・シートから浮かび上がる。
「岡野…さん?」
「はい!岡野です。 昼間のお招きにより現れました」
「昼間連絡した社長秘書の田神です」
そう言って頭を下げる田神は、20代後半から30代前半だろうか、とてもチャーミングに映った。
「社長は、この奥に停泊中のクルーザーでお待ちです。 細かい条件の取り決めについては、そちらで伺いましょう」
岡野は田神の言葉に従って桟橋をついて歩く。
「このクルーザーです」
田神に言われるままクルーザーのデッキを駆け上がり、部屋の中へと入った。
巨大なテーブルをはさんで奥の席に座った女性の姿を見た途端、岡野に戦慄が走る。
「お…オマエは…三上…恭香…」
そんな岡野を見て恭香は口の端を上げて微笑んだ。
「久しぶりね。 岡野君…」
その途端、岡野は後から何かにはがい締めにされ、首元に鋭い痛みが襲った。
「…クソッ…騙しやがった…」
次の瞬間、彼は意識を無くしてバッタリと倒れてしまった。
彼の後には注射器を持った琢磨が立っていた。