「人外の果て」前編-1
「どお?似合う」
そう言って姪の沙織里は届いたばかりの制服を披露する。 照れた表情でジッと立っている様は、まだ服に着せられているような初々しさを感じさせた。
「ええ、よく似合ってるわ…」
その姿を前にした伯母夫婦の由紀夫と永里子は、まるで自分の事のように沙織里の姿を眺めて喜んだ。
これからの6年間。 自分達にとって沙織里は家族同様の存在となるのだから。
『人外の果て』
彼女が伯母夫婦である由紀夫と永里子の元を訪れたのは今年の始めだった。 母親同士が姉妹という事もあり、毎年の年始回りが慣例となっていた。
座敷での挨拶をひと通り終えて、場所をリビングに移して寛いでいると、沙織里の母親、里恵子が話を切り出した。
「姉さん。 今年、沙織里の中学受験なの」
「まあ、中学生でも受験があるの?」
姉の永里子は不思議な顔をして訊き返す。 よく聞けば、沙織里は私立の中高一貫校を受験するのだそうだ。
「…それで、合格したらココに住まわせて欲しいのよ」
里恵子が事の次第を伝える中、沙織里はとなりで俯いていた。
「…そうねぇ……」
事情を聞いた永里子がどうしようかと思案に暮れていると、
「構いませんよ!ウチでよければ預かりましょう」
里恵子の義兄で、永里子の夫である由紀夫は快く受諾した。
「ありがとうございます! お義兄さん」
里恵子の言葉に由紀夫は頷くと、沙織里の方に笑顔を向けて、
「沙織里ちゃん。 頑張って合格するんだよ。 おじさん家なら、いつでも歓迎するからね」
そう言って安心させた。
その翌月。 沙織里は中学を受験、見事合格して今日の日を迎えたのだ。
───
「帰りましたぁ」
入学式を終えて帰宅した沙織里は、ホッとした表情で玄関扉を開けた。 後からはフォーマルウェアに身を包んだ里恵子と永里子が、笑顔で続いてる。
「おかえりなさい…」
出迎えたのは永里子の息子、亮だ。 高校 2年生の彼は、まだ春休みの最中だった。
「どうだった?入学式は」
亮はそう言って沙織里の顔を覗き込む。
「すごく緊張した。 あんなに沢山の人に囲まれるの初めてだから…」
沙織里は頬を紅潮させ、やや興奮気味に答える。 彼女の通う学校は亮もよく知っていて、全生徒で千人をゆうに超えるマンモス女子校だと、地元では有名なのだ。
「…それで、講堂の真ん中を行進するように入っていったら、両方から拍手を送られて……」
夢中で式の内容を聞かせ、目を輝かせる沙織里の様は、これからの学校生活に胸膨らませているように亮には見えた。
そんな彼女の見せる表情に、亮を始め里恵子に永里子も、目を細めて喜んでいた。