女医〜白衣の下の秘めたる欲望〜-1
有馬慶太は病室で溜め息をついていた。
慶太はスポーツとバイクが趣味の大学2年生。
日頃から生傷がたえないが、羽目を外しすぎてしまい先日とうとう事故を起こし利き手と両足を骨折してしまったのだ。
「はぁ…俺ってかなり運悪ぃよなぁ〜この前の試験は名前書き忘れて落とすし、夏休み直前には彼女に振られるし、その夏休みもずっとここで過ごすのかな。」
天井を眺めながらぼんやりとそんなことを思っていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「失礼。有馬くん、調子はどうだい?」
「あぁ先生、もう最悪です。今まで黙ってたけど正直ご飯は不味いし看護師は気が利かないし、できるなら今すぐここを出たいですよ。」
と慶太は不機嫌そうに答えた。
「そうか。まぁ、そういう風に思うのは仕方ない。君みたいな若い子が身動き取れずこんな部屋に一日中閉じ込められてるんだもんな、ストレスが溜まるだろう。」医師は不憫な慶太に苦笑いをしながら続けた。
「君が最近辛そうにしてるから心配になってね。今度から精神科の先生に来てもらうことにしたんだ。先生、どうぞこっちへ。」
そう言うとドアの向こうに立っていた女が入ってきた。
「はじめまして。井川美希です。今度から週2回あなたの診察をすることになりました。詳しいことは今から山本先生に聞いてください。私は急ぐので、ではまた。」
と言い女医はぴしゃりとドアを閉めそのまま部屋を出てしまった。
「あの…随分素っ気ない先生みたいですけど大丈夫なんですか。」
「いつもあんな感じだけど心配することはないさ、井川先生はまだ29歳なのにとても優秀な医者なんだよ。さっそく明日から診てもらうから言いたいことがあったら何でも言っていいからね。じゃあまた来るよ。」
医師は慶太の肩をポンと叩いて行き、回診は終わった。
翌朝、まだ寝呆け眼の慶太がようやく動くようになった足でトイレに行こうと車椅子に乗ろうとすると、ドアの前に人影があった。
「井川先生?でしたっけ。おはようございます…。」
「おはよう。トイレに行くの?今から診察しようと思うんだけど。早くしてね。」
女医はそう言い放ち怪我をしている慶太を急せた。
(本当に素っ気ないな…プライドは高そうだし我も強そうだし俺こういう人苦手かも)
トイレから戻ると女医はベッド脇の椅子に座って待っていた。
「有馬君、山本先生が心配してらしたけど今何か困っていることとかはない?ストレス感じてることとか。」
それはとりあえず今はあなたですと思いながらも適当に話を合わせた。
(マジで早く帰ってくれないかな。こんな冷たい医者と話す気ないんだけど)
女医は事務的に慶太に最近起きたことを聞き、しばらくすると帰っていった。
(なんか精神科医って励ましてくれるイメージあったんだけど。俺が無知なだけなのかな)
それから慶太は不信感を抱いたまま何度か診察を受けた。お互いどんな人物かを探るようないつも決まり切った内容だったが、回数を重ねる毎に日常会話もするようになってきた。
そんなある日だった。
「今日はよく晴れてるね。」窓の外を見ながらベッドの横にいる女医がこう言ってきた。
「そうですね。暑そうですけど外はやっぱり気持ちいいでしょうね。」
「うん。あっ、あの入道雲わたあめみたい、おいしそう…。」
とにこりと笑った。そしてまた窓の外を見ている。
(先生可愛いことも言うんだ。てかよく見ると先生って綺麗なんだよな…外見だけだと柔らかそうだ…そういえば会話してて頭いいなって思うこと何度もあったよな。もしかしたら無責任に励ます先生よりよっぽどいいのかも)
我を忘れ、恍惚たる表情で横顔を見つめてしまっていた。
すると不意に目が合い慶太は焦って逸らした。