気付かずの恋-1
生まれてしまった想い、気付かないフリをした。
幼く不器用な僕たちは、その気持ちを消そうとした。
―存在―
彼らは孤児だった。
イギリスのロンドン郊外、小さな施設。
皆が身寄りのない孤独を埋め合いながら、集団生活を送る中、彼らは異質だった。
「ヤヨ、いい加減カードはやめて外で遊びなさい。」
漆黒の腰まで伸ばした艶やかな髪、でろりと長い袖から覗く、生気のない白い手首。この少女が如何に外に出ないかを物語っている。
「タロットよ、院長」
「なんでもだ。たまにはカード相手でなく、外に出て皆とボール遊びでもしたらどうかね」
「……貴方の今日のカードはこれよ」
「はぁ…ヤヨ……」
「院長、心配しないで。『death』なんて、縁起でもないけれど……」
「はぁ……仕方のない子だ」
弥世、15歳。ここに来て5年になるが、未だに他の子たちと馴染めずにいる。
孤独を愛しているかのように、人との接触を嫌う。暇さえあれば、常に独りでカード遊びに興じている。
そんなひっそりとした存在感は逆に周囲の目をひいた。
浮いた存在には、誰も近寄ろうとはしない。
集団心理が垣間見える。
人種の違いも然り、なのかもしれない。
そんな彼女に唯一話しかける少年がいた。
「よぉ、俺の今日の運勢は?」
「……シニガミ」
「は、よく言うぜ」
「アル、本当だよ」
アルと呼ばれた少年は、そう言って見せられたタロットカードをピッと奪い、びりりと二つに引き裂いた。
「あ……」
「ふん」
恨みがましい視線をよそに、破れたカードを丸めて投げ、くるりと彼女に背を向けた。
アルフレッド、同じく15歳。この施設には3年前にやってきた。
どしゃぶりの激しい雷雨の日、門の前にひん死の重傷を負って倒れていた。
その素姓は誰も知らない。
素姓の知れないものを無意識のうちに視界から排除しようとするのも、また集団心理なのかもしれない。
兎に角、その特有の存在感故に、2人は施設の中でも浮いた存在となった。
院長の悩みの種である。