気付かずの恋-6
―旅立ち―
どういう心境の変化か、最近は割と他の皆とも行動を共にしていたアルが今日は朝から一度もいない。
院長はウノをしていた弥世に、
心当たりはないか、と聞いた。
彼女はウノの数字に目を落としたまま頭を横に振り、
「知らない」
とだけ答えた。
まさかあの井戸が2人のお気に入りスポットだなんて、この老人は知る由もない。
アルの姿を一度も見ないまま、夜の帳が降りてきた。
弥世は窓から藍色から真っ暗な闇に支配された外を眺め、散らばったウノもそのままに、おもむろにドアを出た。
足はもちろんいつもの場所へ。自然に身に着いた習慣。
暗い森の影に、少しだけビクリとした。
井戸の縁、黒い影。やはり、いた。
「アル」
「……」
「アル」
「………」
返事がない。いつもの位置だけど、弥世に背を向ける形で座っている。
彼女は、妙な胸騒ぎを覚えた。
「アル、院長が探してる」
「……あぁ」
「また、『あぁ』の虫?」
「…………」
「どうしたの」
「……お前、此処が好きか」
そう言った彼の眼は、いつもの遠い目ではなかった。
真っ直ぐに、弥世を見つめていた。
「集団生活は嫌いだよ。私は私を崩せないから。」
「…奇遇だな」
「ふ、そうだと思った」
そう言っていつもの位置、すとんと座る。
「分かってたような口振りだな」
「―…」
「はぁ、もうこんな糞つまんねぇとこ出てェよ。話にならねぇ奴ばかりだ」
「でも―…」
「?」
「私は貴方が好きだよ」
「一番、話せるから?」
「まぁね」
「暗がりで見ると、髪凄ぇな。闇そのものだ」
サラ、と細く白い指が弥世の髪に触れる。