気付かずの恋-4
―sideY―
3年前の夏、あいつはふらりと姿を現した。
雷が凄くて、雨が身体に叩き付けるようなどしゃぶりの日。
私は施設の門の内側で、もう会うことのない両親を待っていた。
施設に来て2年、毎日夕方に欠かさず門に向かった。小さな鞄一つだけ担いで、毎日、毎日。
まだ、今にも優しかった父や母が兄弟たちと一緒に現れるような気がして―…
私は馬鹿なことを続けていた。
この日も同じ。いつもと変わらぬ日常。
ザーーーーッ!ゴロゴロゴロ………
『そろそろ帰らないと……院長にバレたら叱られるな』
傘を翻し、施設に帰ろうとする。
ズッズリッズズッ
『?』
なんだか嫌な音。
ズリ、ズズッ!
『ふっ……ふーっ』
下を見ると、肩まである、長い髪の少年。ムラのある。赤い髪の少年。
野生の獣のような顔。少しビクリとした。
『――………!』
『う……』
ドサリ。
ちょうど門の前まで来ると、倒れてしまった。じわりと広がる赤い波紋。
髪の赤が除々に雨に打たれ、流されてゆく。金の美しい髪が現れた。
私は何故かとても冷静に、ピンで鍵を開けると、門を押し開け、その少年を支え上げ、半分引き摺って施設に帰った。
それから、騒ぐ子たちなんかには目もくれず、院長に事態を告げに戻った。
『手負いの獣を拾ったの』
12歳の、夏のことだった。
ばしっ!ばん!!
いつもの井戸。
トランプの、スピードに興じる2人。
「上がり。また勝った」
「糞、カードだけはな」
「ふふ、そうね」
「……なぁ、覚えてるか」
角度がバラバラのカードを細い指で整えながら、アルが聞く。
「何を」
「……俺が来た日のことを」
「うん?」
「いや、いい。忘れろ」
彼はたまに悲観的な目で空を見上げる。
誰も知り得ぬ過去を見つめているかのように。