気付かずの恋-3
―sideA―
あいつは、変な奴だ。
いつでも、自分のペースを崩さない。
俺もそうだ。だからこそ、話せるんだろう。
「ヤヨ」
「何」
「そこにカード置いたら邪魔だ」
「そっち側に座ればいい」
「俺はソコだから、駄目だ」
「どんな子供の理屈よ」
「いいからどかせ。今日はトランプなら、スピードやろうぜ」
「………受けて立つ」
ムカつくことがあると、いつも来るこの井戸。
2年半前、俺が外に出れる様になって、最初に見つけたのが此処だ。
施設の奴らの目に届きにくい、少し離れた場所にあった、野原を見渡せる小さな屋根のついたこの井戸を。
そこで漆黒の髪を靡かせ、気持ち良さげに休む少女を。
「そういえば貴方からだったね」
ばしばしと素早い手の動きで目の前のカードを捌きながら、彼女が喋る。よくもまぁ、器用な奴だ。
「何が」
「私に話しかけてきたの」
「そうだっけな」
やはり俺たちは似ているみたいだ。
「上がりっ」
「あーあ、ちくしょ」
「ふふ、今日のオカズ一個ね」
「……糞女」
「なんとでも言って」
こいつと、この場所で過ごす穏やかな昼下がり。
サワサワと風が葉を揺らす。
秋の柔らかな木漏れ日が、とても気持ちが良い。
(あと少し、あと少しだけ)
俺はそう思わずにいられなかった。