恋の奴隷【番外編】―心の音K-1
Scene12前編―予期せぬデートの誘い
私は見馴れた自分の部屋の天井をぼんやり見ながら、繰り返し自分の胸に問い掛けて。導き出せない答えに頭を悩ませている。
葉月君は私を道具としか見ていない。だから、私を利用しようとしただけで。私への感情なんてこれっぽっちもなくて。それなのに私ときたら、葉月君の言動にいちいち赤くなったりして、葉月君の思う壷じゃないか。彼は心の中でほくそ笑んでいたに違いない。苛立たしくもあり、また、悲しくもある。私は心のどこかで、ノロの思い込みであって欲しいと渇望しているのだ。
昼間の光景が瞼の裏に鮮明に浮かび上がって、私の心拍数は一気に跳ね上がる。葉月君の妖艶な笑みが焦げ付いたように頭から離れてくれない。
どうして―?
矛盾した二つの感情。どうして、怒っているはずなのに泣きたい気持ちになるの?
一定の間隔で無機質な音を立てる時計の秒針。私は、窓の外の景色が青白くぼんやりと浮かび上がるまで、その音を聞いていた。
枕元に置いてある目覚まし時計が騒々しい音を鳴らし、浅い眠りから覚めて。もやもやと霧がかかったようにスッキリしない頭のまま、私はのそのそと身体を引きずるようにベッドから抜け出した。目の下のクマをなんとか化粧でごまかして。しかし、どんよりと曇った表情までもは隠せるわけもなくて。鏡に映る自分の姿があまりにも滑稽で、私は自嘲気味に笑った。
電車の揺れと人混みとで、何度もくらりと目眩がして。それでもなんとか学校に到着し、私はぐったりと机に突っ伏した。
「夏音!?大丈夫!?」
私より少し遅れて教室に入ってきた柚姫は、開口一番に驚きの声を上げる。
「あまり寝てなくて…」
私は声のする方に、少しだけ顔を上げて、ぼそりとそう呟いた。
「うぉっ!?どうした!ひっでぇ顔して!!」
柚姫の隣に立っていたヒデが、目を丸くして私を凝視している。
言い返す気すら起きず、私はじとりと恨めしそうにヒデを睨んだ。
「ナッチー、今日は早退した方がいいんじゃないのか?」
いつの間にかノロまで私の側にやって来て。大きな手が私の頭をぽんぽんと撫でる。心地良い弾みと伝わる温もりに、私は意識を手放してしまいそうになったけれど。担任のしゃがれた声が耳に入ってきて、それを制した。
窓から差し込む陽の光がやけに眩しく感じる。
登校しただけでこんなに体力を消耗してしまっていては、午後まで持たない。授業が始まってからも、夢の世界に入りかけては幾度となく先生に注意されて。私は仕方なく、仮眠をとりに保健室へ向かった。
「熱はないみたいねぇ?でも顔色も良くないし、少し寝てなさい」
保健室の先生は体温計と私の顔を交互に見てそう言うと、部屋の片隅に設置されているベッドへと、私を促した。