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恋の奴隷
【青春 恋愛小説】

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恋の奴隷【番外編】―心の音K-5

「ひぃっっ!!!」

心臓が止まるかと思った。鋭い目に少しだけ笑みを含ませ、にたーっ、と口の端を上げて。葉月君がスクリーンではなく、私を見詰めているのだから。息を飲んで驚いていると、葉月君はふふふ、と声になっていない笑いを漏らす。その様子があまりにも不気味で、冷や汗がだらだらと背中を伝っていく。悍ましい姿形をしたどんなお化けよりも、目の前にいる彼の方が最上級のホラーだと思うんだけれど。

「な、なに……?」

顔を強張らせたまま、そう口だけ動かすと、葉月君は表情を変えずに、くいくい、と顎をスクリーンの方に向ける。

―映画を観ろってこと…?

私はとりあえず、その指示に従うことにした。ずっと見てたら、魂を抜かれちゃいそう。ぞくぞくっと背中に寒気が走って、私は慌てて顔を前に戻した。それでも、隣が気になって仕方ない。ばれないように、目の端で葉月君の様子を窺っていると、あの顔のまま葉月君が私に近付いてきて。私はガチゴチに硬直してしまった。

「僕、恐怖に怯える顔を見るのが好きなんだ…」

私の耳元に口を寄せて、葉月君はそう言った。驚きのあまり、もう声すら出ない。

―な、なんて悪趣味な…

全身の血の気が引いていくのを感じながら、私はそう思った。



「や、やっと終わった…」

ようやく葉月君の視線から解放されて、私はげっそりしながら映画館を出た。映画の内容は、ちっとも覚えてない。時折、葉月君の不気味な笑い声が聞こえたくらいで、私はノンフィクションのホラーに、身体ばかりか思考までほとんどフリーズしてしまっていたのだから。

「大体ねぇ、葉月君が観たいって言った映画でしょ!?少しは映画に集中しなさいよ!」
「僕、非科学的なものは信じないんだ」

さっきまでとは打って変わって、葉月君は涼しい顔をしている。

「そんなものより、人が恐怖に怯えた顔を見る方が面白い」

そう言って、にやっと口元を歪ませる葉月君に、私はぶるっと身震いをした。ちっとも笑えないっつーの…。

「さ、もう満足したでしょ?学校に戻るわよ」

くるりと葉月君に背中を向けて、歩き出そうとしたら、またしても腕を掴まれた。怪訝そうに顔をしかめて葉月君の方を振り向くと、これまた不機嫌そうに眉を寄せて私を見ている。


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