恋の奴隷【番外編】―心の音K-3
「…ふっ、普通はデートしたりしてお互いの気持ちを深めていくものじゃない!」
負けず嫌いな私は、つい偉そうな口を叩いてしまう。しかし、私自身誰かを好きになったり、付き合ったりなんてしたことがないわけで。私はありきたりな理屈をごねた。
「そう」
視線を宙に向けて、なにやら考え込んでいた葉月君は、にやっと口元を歪ませて私の方へちろっと視線を向けた。
「今度は一体何よ…」
「デート」
相変わらず葉月君は、まるで謎解きのヒントのように、単語をぽつりぽつりと口から紡ぐ。どうも読み取れない葉月君の思考を私なりに推理しつつ、訝しげに眉を寄せたまま首を捻っていると、葉月君はむっくりと身体を起こして、私の腕を掴んできたわけで。
「な、なによ!?」
「デート。ほら、行くよ」
「へっ!?」
ここ最近、頭がついていかないことばかりが、私の身の回りに起きて。私の思考回路も脳神経も、めちゃくちゃに絡まって壊れてしまいそう。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!?まだ授業がっ、ておーい!!」
葉月君ときたら、私の話しになんてちっとも耳を貸さず、むしろ目さえもくれずに、ずるずると私を引きずって歩く。ぎゃあぎゃあとどんなに私が足掻いてみせても、しょうがないなぁ、なんて言って、彼がそう簡単に諦めてくれるわけもなく。
けれども、葉月君は大事なことを忘れている。
―お互いがお互いを好きでなければならないこと。
たとえ、どちらかが相手をどんなに好きだったとしても、一方通行の気持ちだけでは成り立たない。ヒデの想いが柚姫に伝わらないように…
上履きからローファーに履き変えさせてくれたのが、まだせめてもの救い。平日の真っ昼間から制服で街中を歩くのは、ただでさえ浮いて見えるのだから。
「…で?どこに行こうってのよ」
私の少し前を黙ったままずんずん歩く葉月君の背中に、私は幾分強い口調で言葉を投げかけた。相変わらず私は葉月君に手首を掴まれたままなわけで。端から見たら、散歩に無理矢理連れ出されている飼い犬、みたいな。間違っても恋人同士には見えないだろう。
「…さぁ」
「さ、さぁって…!人に授業さぼらせといて何も考えてないわけ!?」
「分からないんだ」
「私はもっと訳分からないわよ!」
ぶちぶちと文句を垂れる私に、葉月君は小さく舌打ちをして立ち止まった。
「デートってどこに行けばいいのか分からない」
振り向いた葉月君は、悔しそうに口元を歪ませていたものだから、私は拍子抜けしてしまう。あんなに強引に私をこんなところまで引っ張り出したくせに、私の目の前にいる葉月君は怒られた小さな子供みたいに目を伏せていて。