ヒメゴト〜face each other〜-2
麻衣子の部屋に居る、という実感。
部屋いっぱいに麻衣子の香りが広がっていた。
自分の空間になっているのは、
煙草の煙が取り巻いているこの部分だけだと思うと、場違いな雰囲気がひしひしと伝わって来る。
そもそも陽介は麻衣子の事を何とも思っておらず、
仕事の出来る女性の一人としてしか見ていなかった。
その麻衣子が自分のデスクで、
アンナコトをしていたのを目撃してしまい、
箍が外れたのだ。
(なんて他人本意なんだ。無鉄砲すぎる…。)
自分の行動を振り返れば振り返る程、
無茶苦茶な己に嫌気が差してきた。
何度も煙草をくゆらす内、陽介の中で沸々と感情が芽生えてきた。
(ちゃんと向き合わないと駄目だなぁ…。)
最初は興味本意で麻衣子に近付いたが、
何度も肌を重ねる度に、
新たな快感を求め、
先程は我慢が出来なくて、玄関でしてしまった。
短くなった煙草を流台に捨て、
水をかける。
そしてまた鞄を開け、
小さなメモ帳を取り出す。
何かを書き込み、
麻衣子の寝顔の横にそっと置いた。
シャワールームに戻り、
身支度を済ませ、
陽介は音を立てない様に、玄関のドアを閉めた。
―――翌朝…
あのまま、一度も目を覚ます事なく麻衣子はうっすら瞳を開いた。
途端にガバッ、と跳ね起きた。
(あれ?あたし何でベッドで…?…西田クンは…?)
外からは陽が差し込み、
あのまま寝てしまったのは明らかだった。
キョロキョロと辺りを確認するが、陽介の姿は無く、枕元に一枚のメモを見付けた。
手に取ってみると、
『あまりに気持ち良さそうに寝てるので、起こさずに帰ります。そういえば野村サンの携帯、聞いてない事にさっき気付いたよ。俺のを書いておくから、起きたらメールして。 PS.明日は何処でしたい?』
最後に付け加えられた一文を見て、
顔が高揚していくのが分かった。
そして『起きたらメールして。』と書かれていた事が何よりも嬉しくて、
麻衣子は直ぐ様携帯を探した。
玄関に鞄を置きっぱなしにしている事に気付き、
慌てて玄関に向かおうとベッドから降りると、
ほぼ全裸状態の自分に驚いた。
(何で…?)
一瞬戸惑い、足が止まったが、
それよりも携帯を見付け出すのが重要だった。
急いで鞄から携帯を取りだして、
メモを見ながら陽介のアドレスを打ち込む。