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ずっとそばに。
【少年/少女 恋愛小説】

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ずっとそばに。vol.2-1

「おはよ、未衣(みい)」
いつものように教室に入り、いつもの先客に挨拶をする。
「今日も早いんだな」
そういうと、彼女はふんわりと笑う。
「剛史(つよし)こそ、毎朝頑張ってる」
 あれから剛史は毎日未衣と二人になれるように、慣れぬ早起きをして学校に通っている。そして、なんとか親しい呼び名で呼び合うまでになった。
「何照れてるの」
「だって」
「友達、なんだからいいじゃん呼び捨てぐらい」
どこか意味ありげなのは、剛史は未衣に気があるからである。
「いらねぇことゆうな」
はい、すんません…。
「あのさ」
と彼は言う。
「その花瓶の水、毎日変えてんの?」
彼女は、え…?と俺を見つめる。
「朝早くに、先生がお花だけもっていらっしゃるから、その…」
花瓶に生けるのは私の仕事なの、と言った。
そう、と俺は答えた。あえて聞きたいことは胸にしまっておいた。


「おはよー」
クラスメイトたちがぱらぱらと教室に入ってくる。やはり彼女はあの冷たい彼女に戻る。


あれから数日たつが、俺はこのクラス状況をそろそろつかめてきていた。。未衣はクラスのことになると何も話さないので、なんとなく、の予想はつきはじめていた。


「ねぇ、あの二人最近いつも朝いるよね」
名取景子(なとりけいこ)は携帯を開いた。横には、ハートの半分の形の赤い天然石のストラップがついている。
「偶然でしょ」
「でも海原くん、朝は苦手って言ってたのに…」
「そうだっけ?」
景子は携帯を閉じて外を見る。
「この前言ってたじゃん。おぼえてないの?」
「うん〜…」
外の景色が眩しくて目を細める。
「むかつくからさぁ〜、ちょっとみせしめに」
「うるさいよ!!もうあっち行って!」
景子のいきなりの剣幕に、話しかけていた友達は驚いたのち、しぶしぶ自分の席へと去っていった。
「ったく…」
彼女はストラップを見つめて眉をひそめた。そして携帯をもう一度開いて、カチカチといじりだした。


 未衣はポケットの中で振動した携帯を覗いた。そして、しばし固まってしまった。
「景子から…?」
ゆっくりと携帯を開き、メールを読む。
『ミイ〜、あのさぁ、―――…』
彼女の目から光が少しずつ消えて行く。その瞳をぎゅっとつぶる。未衣は、おもむろに携帯を机の上に叩き付けた。
「なんで……」
悔しくて涙がでそうになった。

なんで、私が…

そっと剛史を見やる。男友達もでき、楽しそうに組み合っている。

もっと近付きたい、
でも。

彼まで巻き込むわけにはいかない……

未衣はそっと携帯を閉じた。


翌朝、剛史は大急ぎで自転車をこいでいた。暗黙の了解では、未衣との教室での集合時間は7時半となっている。
「くっそ〜やっぱ朝はきついよ…」
駐輪場に駆け込んだときにはすでに時計の長針は“7”を指していた。
「未衣、ごめん遅くなった!……?」
教室には、誰もいない。未衣の机の上には花瓶と花があり、まだ手入れしていないことがわかる。
「未衣…」
彼は席に座って彼女を待った。嫌な予感ばかり頭をよぎり、窓と時計をずっと交互に見ている。
すると、ガラッとドアの開く音がした。
「未衣っ!」
しかし、そこに立っていたのは未衣ではなく景子だった。
「今日から未衣、朝が大変だからゆっくりくるんだって」
剛史は自分の心の時間がとまるのを感じた。
「だからその花瓶の当番も私がするの」
景子は、自分の机に鞄を置いて、未衣の席へと歩み寄る。
「未衣が、そういったのか?」
そう彼が問うと、花瓶を持った彼女は振り返った。
「あの子に関わらない方がいいよ」
そう言うと、景子は教室をあとにした。


未衣は直接教室には行かず、一限目をサボるために屋上に来ていた。
剛史が朝早くに来て自分を待っていると思うと胸が痛むが、これでよかったのだと自分に言い聞かせていた。
空は夏の太陽を飾りきらきらと輝きをましている。その清々しさが、逆に悲しい気持ちを呼び起こさせた。


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