ずっとそばに。vol.2-2
こんな時も空は青いわ。雲ひとつない……
未衣の目からは涙がこぼれていた。それを隠すことも拭うこともせず、ただはらはらと雫を落とした。
「♪〜〜――…」
彼女の口からはあのメロディーがこぼれる。その旋律は儚く、また切なく空に溶けてゆく。
誰も悪くない。悪くないの…。
未衣は頬を伝う涙をようやくぬぐう。そして、そのまますくっと立ち上がると、屋上を後にした。彼女の瞳は恐ろしく冷ややかなものであった。
ガラッ……
剛史は、休み時間にもかかわらず、ドアの開く音がとても大きく感じた。
「未衣!!」
彼女は剛史をみることもなく自分の席へと向かう。剛史は、彼女へと近づいた。
「未衣……」
あの冷たいまなざし。
またもとに戻ってしまったのか……。
彼は愕然とした。頭がショートしそうになるのをなんとか持ち堪えて口を開いた。
「なぁ、あの朝の仕事、名取さんにまかせたのか…?」
未衣はこちらを見ずに鞄をおく。
「そうよ。これからはあの子がやってくれるわ」
「…それが俺に対する答えか?」
はっと彼女は振り向いた。ゆがんだ前髪のピンを気にして、真っ直ぐに整える。
「そう。だからもう関わらないで」
俺の目をみていない。彼女は周りをちらちらと見る。
気にしているのか?
なぜ?
「そうゆうこと。納得した?」
名取景子がこちらへと歩み寄る。未衣の隣までくると、彼女の机に腰かけた。
「昨日久々にメールしたんだよね。それでそうゆう話になって」
ぽん、と景子が未衣の肩に手を置くと、ビクッと彼女の体は跳ねた。
「これからは私が代わるってことになったんだよねー」
俺は未衣をじっと見つめる。何かに怯えているような表情、きゅっと握りしめた手。
「本当にそれでいいのかよ」
しん、と教室が彼の一声で静かになる。彼の問いかけは、未衣にだけではなく教室の中にいる全員に向けているかのように響いた。
「いいよね?未衣」
未衣はうつむいてから、少し間を置いてこくんとうなづいた。
あぁ。
頭の中の自分の問掛けの答えがでてきた。今までの予感していたものが確信にかわる瞬間だった。
やっぱり未衣も……
考えるだけで手に力が入り、拳がわなわなとふるえる。
なんでもっと早く動いてやれなかったんだ。そうすれば一日でも未衣は苦しまずにすんだだろうに。
「なぁ」
努気をはらんだ彼の声は、クラス中の視線を集める。
「お前らこそこのクラスで納得してんのかよ」
挙動不審なヤツ、まわりとこそこそ話し合うヤツ、俺をにらんでいる名取、そして……
ゴクッと上まで上がってきたさまざまな汚い言葉を飲み込んで、俺は大きく深呼吸をした。
「お前らのやってることはなぁ…」
「剛史!!」
未衣はいきなり俺の腕をがしっとつかんで教室を弾かれたように飛び出す。すごいいきおいで彼女が駆けるので、俺はびっくりして何も言うことが出来なかった。
「ほら、結局逃げるんじゃん」
誰かがそう言うと、教室は安堵の溜め息とともにいつもの明るさを取り戻す。
そんな中、景子は苦々しい面持ちで二人が去ったドアを見つめていた。