気持ちの比例式-6
私は一人トボトボと玄関にむかった。その途中には数学準備室が…。自然と私の目は先生を探していた。いるはずないよ…。でも、もしかしたらと思って私はドアの窓から中を覗いていた。
「裕也ぁ?こっちを向いて?」無言で振り向くと…。
ん?っ先生また桜坂先生と一緒にいる…。何だか近くない、2人?
次の瞬間…
やわらかい彼女の唇が重なった。すぐに離れたと思うと「もっと…」掠れた声がでた後は、野獣が美女にキスをするかのように激しいものになった。
―バタバタバタ
『しまった…』
私は何も考えられずその場を後にした。
どうやって玄関までたどり着いたのかも覚えてない。
「海星!」
名前を呼ばれたので反射的に振り返った。
「おい、どうかしたのか?」「えっ?何も」「涙が…」「え?」私は自分が涙してるコトさえ知らなかった。
「えっーと、これハンカチ!使ってないから綺麗だから使って…」「ぁりが…と…」「帰ろうか?」私は頷きゆっくりと歩き出した。風谷君は何も聞かなかった。聞かれても答えるコトができないので丁度よかった。
「あっ!犬!ダックスだ」突然、彼は大きな弾んだ声を出した。そして、その犬に近付きじゃれあっている。飼い主さんとも楽しそうに何か話している。ちょっとすると帰ってきた。
「犬好きなの?」「うん!俺、ダックス飼ってるんだ。めちゃカワイイぜ!今度見に来いよ。」「うん。ありがと」私は風谷君の犬馬鹿っぷりを見て笑ってしまった。「今、犬馬鹿って思ったろ?」「えっ?!」「うわぁ、海星思ったな。」「思ってない×2!(笑)」笑いながら答えた。「でもな、犬飼ったらそんな風に皆なっちゃうんだよ。」「へぇ。そうなんだ」「とりあえず、今度来いよ!で、勉強も教えてください先生!」「うん。いいよ。このあたりだから私の家。ありがとう送ってくれて。じゃあね。また明日」「おー!気をつけろよ!じゃあな」
本当にほんの少しだけ気が和らいだ。家に帰ってベットに直行。目覚めたら次の朝だった。
―キ-ンコ-ンカ-ンコ-ン…
「るぅかぁちゃ〜ん♪」ニヤついた撫子が近付いてきた。
「何?気持ち悪いわよ」「そんなこと言っちゃって。みずくさいわねぇ」「何が?」「とぼけちゃう?」「だから何が?」「風谷君と付き合ってるんだって?」「へっ?」「昨日、放課後二人が一緒にいるとこ見た子がいるのよ。で、キスするくらいの至近距離で覗き込んでたらしいわね?どうなのよ?!」
付き合ってる?!キス!?冗談じゃない。そんなコト有り得ない。撫子の問い掛けに答えようとした時に
「本国、それかなり誤解。」「「えっ?」」二人同時に声の主の方に振り返った。
「あっ!噂の風谷君だ!」撫子は嬉しそうに目をキラキラさせて叫んだ。
「はぁ〜。女の子は噂好きだなぁ…。昨日は2人共再テストで帰り遅くなったから俺が送っただけ。」と淡々と風谷君は答えた。「じゃあ、至近距離は?」不満そうに撫子が聞く。「っそれは…」「それは、私の目に虫が入って取れなかったから風谷君がハンカチ貸してくれた時に顔が近付いただけ。漫画みたいな誤解ね…」
「なぁ〜んだっ!面白くナイ」「人で楽しまないでよ、もぉ〜」撫子は可愛いらしく頬っぺたを膨らましてブーブー言ってる。
「海星、来たついでだから勉強教えて。小野先生の数学の授業寝てしまって…。珍しく教壇からおりたと思ったらいきなり教科書で殴られてさ…(笑)とんでもない量の宿題だされた。」というと、問題集を広げた。
小野先生が…?珍しい。生徒とは関わりを自ら持とうとしない無愛想数学教師なのに…。どうして?
何先生の心配なんかしてるのよ!?先生は…先生は…。
こんなことで放課後は3人で勉強会が日課になった。風谷君は部活があるから毎日は出られないケド出られる日は来てくれてた。
―ピロピローピロピロー
「はい、親父?……あ〜、あの書類目通してくれただろ?もう取引きはやめろよ。俺がちょっと調べただけでこんなに垢が出てくるんだ。っあ!ちょっと待ってくれるか?もっと大きな垢を見つけて完全に取引きをやめられるようにするよ。それの方が会社の名前を汚すコトないしな。……うん。わかった。赤字が出ない程度に取引きをしておいてくれ。」
―ガチャン
「ふー」
数学準備室にため息が響いた。
何日、彼女に会ってないだろうか?気が狂いそうだ。目を合わせようとしても絶対に合わせようとしない。数学をよく質問しに来たのに来ない。まぁ、理解してくれるのは嬉しいがここまで接点がなくなるのは辛い。彼女は何か知ってしまったのかもしれない…。でも、どおして?写真はまわってないはずだ。あの女は俺を本気で怒らせたらとんでもないことになるとはある程度わかってるはずだ。どうしてか聞きたいが今はそんな時期じゃない。一段落しないと、彼女が学校にいられなくなる。なんとかして、垢を見つけなくては…。
「会いたい…」自然と言葉がでた。