15cm(前編)-3
「遙、おっはよー!」
後ろから勢いよくバシッと叩かれて、うっかり寝不足な私は抵抗する暇なく床に顔面ダイブ。
「いったー…」
「やだ、うそ、ごめん!
ごめんね、遙ー!!」
薫に起こされながら、額を押さえる。
どうやらコブになっているみたいだ。
「遙、ほんとごめん、大丈夫?」
「うん、へーき。
ちょっと寝不足でふらついてただけだから。」
「そうなの?寝不足ってなんか考え事?」
発端になった人物に聞かれてもねぇ。
「うん、まぁくだらない事だよ、なんでもない。」
そうとしか言いようがないよね、と溜め息まじりに教室に向かった。
「渡辺ー!おはよ!」
七瀬…。
まぁ、確かに言われてみれば顔は悪くないかも。
なんて言うか、女子が好きそうな顔だよね。
「おーい、渡辺ー?」
しかも、何気に人なつっこいし、慣れた相手には無防備すぎるほど笑顔。
最近気付いたんだけど、こんなに人なつっこい七瀬でも、実はあんまり女子とは話していないみたいだ。
よくクラスの子に、どうやって仲良くなったのか質問責めに合う。
そんな事聞かれても、七瀬は隣になったときも今も、ずっとこんな感じだから答えようがないんだけど。
「無視かよー?渡辺?」
「え?…あぁ七瀬、おはよ。」
うっかり挨拶が遅れてしまって、七瀬は不機嫌そうな顔をしている。
「ごめんごめん、考え事してたらつい…」
申し訳なさそうに手を合わせると、「仕方ないなぁ」と呟きながら、突然何かひらめいた様子で、七瀬は勢いよく席を立った。
「な…なによ?」
「渡辺さあ、来週の土曜ヒマ?」
…来週の土曜?
「暇だったら、俺に勉強教えてよ。
再来週の実力テストの勉強したくてさ。」
「な、何で私が?」
「それはー…
当日までの秘密!」
何がどうなったのか分からないまま、かくして、私は七瀬と勉強会を開く約束をしてしまったのであった。