『終わりの闇、始まりの光』-7
……私は、卑怯者だ……
魅也を詰(なじ)る資格なんて私には無いのかもしれない……
「どうして黙ってるのよ!何とか言いなさ……」
「酷い言い方して悪かったわ……」
「えっ?」
「だけど、もし知っているとしても私からは話せないの、ごめんなさい。」
そう……だって、これは由佳の人生に関わるコト。軽はずみに私が話す訳にはいかない……
「そんな!じゃあ私はどうすればいいの?」
そうよね、こんな言葉で納得出来る筈無いわよね。だって、気付いてしまったんだから。あなたは由佳の正体に……
どうしたらいいんだろう……
そんな時、突然ポケットの中で携帯が震えた。私は通話を押して耳に当てる。
「あ、圭子姉?うん、私は大丈夫……。それより、由佳は?……そう……ねぇ圭子姉、由佳に変わってくれる?」
電話越しに圭子姉の動揺が伝わる。
「わかってる……だけど、変わって欲しいの。とても大切なコトだから……」
小さな声でやり取りが聞こえた。そして、静かになると微かな息遣いが伝わってくる。
「……由佳、私よ……」
私は出来るだけ優しい声を出した。
「返事はしなくていいわ。でも、私が言うコトを最後まで聞いて欲しいの。もし、嫌だったら途中で切っていいから……」
一旦、台詞を区切ると私は呼吸を整えた。
「今ね、魅也さんといるの。あなたも気付いていると思うけど、彼女も苦しんでいたの、今日までずっと……。だから、あなたのコト……話してもいい?」
由佳からの返事はなかった。だけど、通話はまだ切れていない。
「私はあなたが好き……。誰よりも由佳を愛してる。女同士で気持ち悪いって思うかもしれないけど、これが私の本心……今までも、そしてこれからも……」
私の告白に、微かに息を飲む気配を感じた。
「身勝手だけど、私はあなたに嫌われたくない。けど…どうしていいかわからないの。由佳、教えて……私はどうしたらいいの?」
由佳からの返事は無い。ただ沈黙だけが重くのしかかっていた。今の由佳の気持ちを考えたら、言うべき台詞じゃなかった筈。だけど、伝えずにはいられなかった。たとえ、また独りになるとしても由佳にだけは嘘を付きたくなかったから……
もう、これで終わりなんだろう……私がそう思いかけた時、電話の向こうから静かな声が聞こえた。
『それは、あなたが決めるコト……そうでしょ?弥生……。あなたの気持ちに応えてはあげられないけど、それでも私の大切な親友よ、あなたは……』
私の耳に声が響いた。嫌われても仕方ないと思っていた。私なりの覚悟を決めた告白だった。だけど、彼女は言ってくれる……
《あなたが決めて》
と……
「ありがとう由佳……。私、遅くなるけど心配しないでって圭子姉に伝えて……うん、それじゃね……」
私はそう言って、静かに携帯を閉じると魅也を見た。
(それより少し前、マンションにて…功刀由佳)
私はどうしようもなく混乱していた。何をどうしていいのかわからず、ただ震えていた。
「あなたは何も考えなくていい。今は休んで……」
圭子さんは、それだけしか言わなかった。
車の中でも、マンションに帰ってからも彼女は何も聞かない。ただ、私に休むようにと言葉をかけただけ……
横になり、目を閉じても落ち着くコトなど出来はしない。なぜなら、気付かれてしまったから……
魅也は私の正体を知ってしまったんだ。
どうすればいいんだよ!
どうすればいいのよ!!
私の中で、由佳とヨシキが同時に叫んだ。
わからない……
わからないわよ!そんなコト!!
魅也にだけは知られたくなかった……
魅也の中ではヨシキのままでいたかった……
私のした事は間違いだったの?
来なければよかったの?
ただ、おばあちゃんにお別れがしたかっただけなのに……
わからない……
もう、何も考えられない……