『終わりの闇、始まりの光』-17
私は静かに目を開けた。
瞳に映る泣いている由佳の顔……
「見ちゃダメって……言ったのに……」
泣いているの?
笑っているの?
答えなんてわからないけど、私は精一杯の笑顔を向ける。今なら言える、そう思えたから……
「初めまして、由佳…」
これが始まりなんだ……
私と由佳の……
あなたはもうヨシキじゃない、由佳なんだ……。私は自然とそう思えた。
「うん…初めまして、魅也……」
そして私達は、どちらともなく静かに笑った。
「電話しなくちゃ……」
不意に思い出したように、由佳は携帯を取り出すとボタンを押した。いいえ、押しかけた手を止めて辺りを見回すように顔を上げると……
「弥生、全部済んだわ……。あなたの事だもの、近くにいるんでしょう?出て来て……」
そう言って笑った。
すると背後でガサガサと茂みが揺れ動き、少し離れたところからバツが悪そうに弥生は姿を現した。
「覗き見する気じゃなかったのよ?ただ……」
恥ずかしそうにそう言って、弥生は俯いてしまう。
彼女なりの由佳を思っての行動……。本当は気になって仕方がなかったんだ。でもそれは、由佳もわかってる筈。だって、あんなにも優しい眼差しをしてるんだから……
「弥生……。ありがとう、すべてあなたのお蔭よ。あなたが居てくれたから、今こうして笑えるの……」
そう言いながら微笑む由佳は涙ぐんでいた。
「もし……すべてが済んだ後、それでも私が笑顔でいられるなら、あなたに伝えたい言葉があったの……。ありがとう、もう一人の私……って。」
「……由佳……」
顔を赤らめたまま、弥生は頷き返す。そこには私の入れない二人だけの空間が確かに存在していた。私だって弥生には感謝している……
だけど、胸の奥が切なく疼き、締め付けられる……
笑顔でいるコトがこんなに苦しいなんて思わなかった……
「魅也、お願いだからそんな顔しないで……。だって私には、あなたと同じくらいに大切なの。弥生のコトが……」
そんな私の些細な表情の変化に、やっぱりあなたは気付いてしまう。
バカ!!こんな時ぐらい、気付かないフリしてよ!
由佳は、手を伸ばして私の腰を抱くと強引に引き寄せた。そして私と弥生を両腕に抱いたまま、ゆっくりと目を閉じる。
「あなた達に我儘な、お願いがあるの……」
うっすらと口許に笑みを浮かべて、由佳は言った。
私達に?
「あのね、女になった私を、これからも支えて欲しいの……。迷惑かもしれないけど、あなた達にしか頼めないから……ダメ?」
そう言って、再び目を開けると私達を見つめた。
由佳の言葉に弥生は慌てたように首を振る。
「ありがとう、弥生。」
そして、ゆっくりと彼女の視線は私に向けられる。
「し、しょうがないわね!乗り掛かった船だもの、あなたがもういいって言うまで面倒見てあげるわよ!!」
なぜか素直に答えられず、私は拗ねたように言う。そんな私を見つめて由佳は嬉しそうに微笑んだ。
けれど、何かを思い出したように突然クスクスと笑い出す。
「今ね、初めて女性でよかったって思ったわ。」
意味不明な由佳の言葉に私と弥生は顔を見合わせる。そんな私達の間を縫うようにして、颯爽と彼女は駆け出した。そして数歩進んでこっちを振り返ると
「だって、私が女じゃなかったら……わかるでしょ?」
そう言って、由佳は悪戯っぽく微笑んだ。
私達の顔を見つめながら、楽しそうに……
あなただけの笑顔で……
END