『終わりの闇、始まりの光』-16
訳がわからず彼女の胸の中で私が頷くと、しばらく間が開いた後、
「……魅也……」
優しい声が聞こえた。ゆっくりと語りかけるような、私の大好きな言い方で…
「ヨ…シキ…?」
「ああ、そうだよ魅也」
あの頃よりも少しトーンの高い声……。でも、忘れる筈のない話し方……
「ごめんな。お前をこんなに悲しませちまって。」
「いいよ、何も言わなくていいよヨシキ。わかってる、私わかってるから。」
「魅也、お前との約束を破るつもりなんてなかったんだ。信じてくれるか?俺のコト……」
顔を擦りつけるようにして、私は何度も頷いた。
「ホントはあの時、お前を抱き締めたかった。だけど、俺は……」
微かに鼻を啜る音、そして震える身体……声……
「凄く、心配したんだよ?ヨシキ……お帰り……」
「ただい…ま……魅也」
私はヨシキをしっかり抱き締める。だけど、頬に男には無い膨らみが当たる……それが哀しかった。
「本当に……女の子になっちゃったんだね……でも、いいの。ヨシキが無事で、こうして私の前に来てくれたから……」
「ごめん……魅也」
「大好きだよヨシキ。今までも……これからもずっと……。私、あなたを愛し続けるわ。だから……」
声が震える……
でも、言わなくちゃ……
ヨシキの為に、私の為に……
「何があっても忘れない。絶対に忘れない……。だから……」
私を抱き締める彼女の腕に力が入る。
本当は、言いたくないの。わかってるでしょ?ヨシキ……
「あなたの顔も……声も…身体も……ちょっと意地悪なところも……とっても優しいところも…全部、全部忘れないから……」
どうやったら伝わるんだろう……
どうやったら届くんだろう……
「あなたの全てが私の中にあるの……。それは決して消えたりしない。絶対に無くさない……。だから……」
震えている……私の身体が……
震えている……ヨシキの身体が……
お願い!伝わって……
あなたの為の……
私の為の……
この想い……
「さようならヨシキ……。今までありがとう。」
私は、ありったけの力で彼女の身体を抱き締めた。
トクン……、トクン……、トクン………
無音の中で、あなたの鼓動だけが聞こえる。
「魅也、お前に委ねていいのか?」
静かに響くヨシキの声…
「いいよ。辛くなったら会いに来て、いつでもあなた[ヨシキ]に会いに来て……」
「……魅也……」
「だから、由佳であるコトを嘆かないで……悔やまないで……。そして、愛してあげて……もう一人のあなたを……」
彼女の身体の震えが止まる。ゆっくりと、しっかりと、私の身体を抱き締め返すあなたの腕……
「やっぱり……お前は最高の彼女だよ、魅也。」
伝わったんだねヨシキ……これがあなたの答えなんだね?
でも本当はね、一つだけお願いがあるの……
本当は……最後に……
「魅也……、キスしていいかな?」
言葉になんかしなくても、わかってくれる、あなたが好き。
ねぇ、私も言っていい?
あなたは最高の彼だわ……
私は目をつぶったまま、顔を上げる……
顎にかかる、あなたの指……
『こうやってキスするのって、なんかカッコイイよな……』
本当は照れてた癖にヨシキはそう言ってたよね?私達のファーストキス……。今でも覚えてるよ。
「こうやってキスするのって、カッコイイよな…」
覚えててくれたんだ。
そうだね、カッコイイかもしれないね……
これが、あなたと私の……ラストキス……
忘れないよ、あなたの唇……
あなたの温もり……