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『本当の自分……』
【少年/少女 恋愛小説】

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『終わりの闇、始まりの光』-15

ドアのところに由佳と弥生が立っていて、椅子から立ち上がった私に気付いた二人は、ゆっくりと歩いて来る。

テーブルを挟んで私の前に由佳が坐る。だけどその隣に弥生は坐らなかった。
「じゃあ由佳、後でね……」
その言葉に頷く由佳、そして弥生は私の方を見ると
「私の役目は、ここまで。後はよろしくね魅也。」
そう言った。

「どういうコト?」
私が聞いても弥生は何も言わない。ただ一瞬、淋しげな笑みを浮かべると、そのまま振り向きもせず店を出ていった。
「弥生がね……」
ただ呆然と、去って行く弥生の後ろ姿を見ていた私は由佳の言葉に視線を彼女に移す。

「弥生がね、私がいたら魅也が話しづらいだろうからって……」
「弥生がそんなコトを?だからあんな……」
曖昧な弥生の返事の意味。それは私の為……

そして、おそらくは由佳の為……

「あなたも弥生って呼び捨てにしてるのね、驚いたわ。」
不思議そうに私を見ながら彼女は言った。
「弥生から何も聞いてないの?あの後私達がどうしていたのかを……」
彼女は黙って頷く。弥生は話さなかったんだ。私の気持ちも、自分の気持ちも……

気にならないの?
本当はそう言いたかった。何故、弥生があんなコトを言ったのか……何があったのか……。だけど私は何も言えなかった。

「私は彼女を信じてる……。だから、弥生が話してくれるまで待つコトにしたの。」
私の思いを察したように由佳は言う。
「そう………。ねぇ、来てすぐだけど、出ない?変な言い方なんだけど、出来れば誰もいないところで話したいの……」
確かに変な言い方よね。自分の言葉に私は自嘲する。だけど、彼女は静かに頷いて席を立った。

会計を済ませ、外に出た私達はあの場所に向かう。最初から決めていた訳じゃないけど、自然にあそこへと足が向いた。

二年前の《あの場所》へ……

本当はここに来たくなかった。でも、ここしかないって私は思ってた。

「ココじゃない方がよかった?」

私は立ち止まり彼女に聞いてみる。でも、由佳は薄く笑うと小さく首を振った。「あなたはきっと、ココを選ぶと思っていたわ。」
彼女の言葉が静かに響く。そうね、私もあなたならそう答えてくれるって思ってたわ。

あれ以来、この公園に来るコトなどなかった……。二年前、ヨシキは死んだと告げられた場所……

そして、彼が自分を殺してしまった場所……

「昨日から考えてた。どうやって話そうかなって。でも、実際あなたと会ったら、上手く言葉が出て来ないの……」

言いたいコトはたくさんあった。

聞きたいコトもたくさんあった。

だけど、彼女を目の前にして、情けない程に私はうろたえている。伝えたい想いは溢れ出るぐらいなのに、喉に詰まって言葉にならなかった。そんな私を困ったような顔で彼女は見つめる。そして、ほんの一瞬だけ眉をしかめる仕種。
あの頃、何度も何度も見た仕種。私が拗ねると、いつもヨシキはそうしてた。

溢れる想いは雫になって、瞳から零れて行く。

「ヨシキ……」

自分の言葉にハッとして、私は口を押さえた。

違う!彼女は由佳……ヨシキじゃないんだ。

小さく息を吸って私は呼吸を整える。
「ごめん…なさい……。あなたを傷つけるつもりなんてなかったの……。ただ、私は……私は……」

ヨシキに逢いたかっただけなの……

本当はそう言いたかった。でも、口にしたら彼女をまた傷つけてしまう、だから私は必死に言葉を飲み込んだ。
すると突然、フワッと私は柔らかく包まれる。そして、頭のすぐ上から声が聞こえてきた。
「あなたの好きなように呼んで……。今日は我慢しなくていいから……」
彼女の言葉に、私の意識は中学生に戻ってしまった。人目も気にせず声を上げて泣き出してしまう私……

「ヨシキ!!ヨシキぃ!!私、淋しかったよ…あなたに逢いたくて……悲しくて…苦しくて……」
彼女は何も言わず私の髪を撫でていた。時折、人差し指に私の髪を絡ませる……私が大好きな、ヨシキの癖……

『お前の髪って柔らけーのな……』

そんな声すら聞こえた気がした。
「聞きたい…ヨシキの声が…聞きたい…よ……」
その瞬間、彼女の胸が大きく動いた。まるで深呼吸するみたいに……そして、
「絶対に顔を上げないでね、魅也さん。」
そう言った。


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