『終わりの闇、始まりの光』-10
私の全身から血の気が引いていく。いつも笑顔を絶やさない弥生に、そんな過去があったなんて……。それよりなにより、弥生に兄妹がいたなんて……
「痛々しくって見ていられなかったわ。弥生は自分を責めた……。自分の我儘で家族が死んだんだって……自分が家族を殺したんだって……」
「そんなのおかしい!!だって、弥生のせいじゃないでしょ!?」
思わず私は叫んでしまった。叫ばずにいられなかった。それは、あまりにも弥生が可哀相だったから……
「そうね、私もそう言ったわ。だけど、あの娘は自分を責め続けた。その後、親戚に引き取られた弥生は笑顔を失っていた。笑ってはいても、それは作り笑顔……親戚を、周りを困らせない為の笑顔だったの。」
思わず涙が零れた……
それは悔しかったから。
そして悲しかったから。
「二年前だったわ……。久しぶりに電話で話した弥生の声が、すごく明るくて私は驚いたの。今でも覚えてる、『圭子お姉さん聞いて!私、友達が出来たの!!』って。本当に驚いたわ、あんなに嬉しそうな弥生の声を聞けるなんて……」
彼女は、そう言ってそっと涙を拭った。
「だから、私は言ったのよ。そんな素敵な友達なら、私も会いたいから連れて来てって。だってお礼が言いたかったから……弥生に本当の笑顔を取り戻してくれた、素敵な友達に……」
「圭子さん……」
「そして、弥生は連れて来てくれたわ。由佳、あなたを……」
その時、初めて私は本当にわかった……
どうして二人が、こんなにも私のコトを大切にしてくれるのか、考えてくれるのかが……
「だけど、あの事が起きてしまった。あの時の弥生の取り乱しようはなかったわ。だって、あの娘は知っているのだから。失う辛さや哀しみを……」
「………」
「そして、孤独でいる事がどんなに淋しいのか知っている。だから、たった一人の友達を失うコトが、弥生は怖くて仕方がなかったのよ。」
今ならわかる。弥生の言葉の意味が……
『あ!由佳が笑った。あたし初めて見た。やっぱり、無理矢理だったけど誘って良かったぁ!!』
弥生は本当に嬉しかったんだ。私が笑ったコトが…
『由佳が初めて自分のコト話してくれたね……』
涙ぐむ程に嬉しかったんだね……
『今の由佳を一人でなんて帰せないよ。どうしても帰るって言うなら、あたしも帰る!!』
心の底から、心配してくれていたんだね……
「由佳、覚えてる?あの時弥生が言った言葉。『由佳は由佳、私はそれだけでいい』って……。それこそがあの娘の気持ちのすべてだったのよ。」
「だから、私なんですね。由佳でもヨシキでもなくて……」
私の言葉に圭子さんは、ゆっくりと頷いた。
「きっと、あの娘はあなたに兄を重ねているのかもしれない。まるで贖罪のように、家族に注ぐ筈の愛情をあなたに向けていたんでしょうね。」
私は何も言えなかった。絶やさない笑顔の裏に、どれほどの想いが込められていたのか知ってしまったから……
「恋愛や、友達との友情……。その全てをあの娘は棄ててきた。自分なんかが幸せになってはいけない……。自分は咎人(とがびと)なんだから……。きっと、そう考えていたんでしょうね。」
違う……
違うよ、弥生……
あなたは何も悪くない…
「由佳と知り合って、毎日が楽しくて……。だけど、あの娘は理由が欲しかったのよ。一緒に居続ける理由が……。そして弥生の出した答えはあなたを守る事……。自分よりも、あなたを第一に考える事で、心のバランスを保っていたんだと思うの。」
私の記憶の中の弥生はいつも笑顔……。それが、危ういバランスの上に成り立っているなどと思いもしなかった……
「友情と愛情……。あの娘の中では複雑に混ざり合ってしまっているのかもしれない。だから、そんな言い方でしか、あなたに自分の想いを伝えるコトが出来なかったんでしょうね。」