僕とお姉様・最終話〜僕と一緒に暮らしませんか〜-8
あれからお姉様は、また僕の部屋に帰ってきてくれた。合鍵と二千円をニコニコしながら受け取って、すぐに部屋の模様替えを始める。
物理的にもそうだけど、空気の色まで変えてしまったみたいに見えた。
模様替えの最中、探していた宝物は見つかったらしい。でもそれが僕に知らされる事はなかった。"無くしたままで"という無茶なお願いを聞く為のようだ。
結局宝物の正体は分からず終い。
「そんな高価な物あったかな…」
いつの間にか台所に戻されていたあの安物の箸を見ながらふと呟いた。
風呂から出て自分の部屋に戻ると既にお姉様は夢の中。
相変わらずよく寝る人だ。
気持ち良さそうな等間隔の寝息に耳を傾けながら枕元に腰を下ろした。
「…」
いいよね。
誰かに同意を得て、顔を近付けると―
「!」
突然お姉様の手が僕の後頭部を鷲掴んだ。そして有無を言わさず、
「ちゅっ」
キスされた。
今、僕からしようと―…
唇が離れると、惚ける僕を見て
「うひひっ」
気持ち悪い笑いを残して何事も無かったかのように横になった。
寝ぼけてたのか、確信犯か…
いつもいつも僕のペースを乱して、日常を掻き回して、おかげで僕がどれだけ幸せか。
「おやすみなさい、お姉様」
明日もまたこの言葉が言えるといい。
そんな事を思いながら目を閉じた。
「…あ」
名前聞くの、また忘れた。
(完)