秋と春か夏か冬〜番外編00話『始まり』〜-4
「なに言ってるんだよ!嫌いになるわけないし、おこるわけないだろ」
「……ほんとう?」
「あたりまえだよ。なつきがいなくなったって聞いて…しんぱいだっただけ。ケガとかなくて良かった♪」
怒らないどころか僕を心配してくれる、本当に優しい男の子…。
「僕ね……あした…きょうすけくんと…おわかれするのが…いやだったの。だから…にげちゃった…」
僕は泣きながら話す。
「俺だってなつきとお別れするのはイヤだよ。でも…やっぱり明日…かえらないといけないんだ」
「…うん」
「でもさ、これでおしまいってわけじゃないだろ?住んでるところがとおいから、今はあえないけど……大人になったら『さいかい』できるよ♪」
きょうすけくんはにっこりと笑う。
「おとなって……どのくらい?」
「う〜ん……10年後くらいかなぁ…」
「そんなぁ…ながすぎるよ…」
「でもさ、長いぶん…つぎにあったときの喜びは10年分あるよ♪だから…泣きやんで…」
僕を励まそうと、一生懸命なきょうすけくん。
そんなきょうすけくんがやっぱり嬉しくて…僕は泣きやむ。
「うん…わかった!おとなになったらだね♪『さいかい』…できるかなぁ?」
「できるさ!2人ともテレビや本にうつるくらい、ゆーめい人になれば良いんだよ♪」
「ゆーめい人?」
「あぁ!なつきは夢とかある?」
「う〜ん…僕はパパがむかし、『はいゆう』ってお仕事してたの。すごくカッコ良くて、そんなふうになれたらなぁって思うけど…」
「俳優かぁ〜。じゃあ、なつきは女の子だから女優だな!」
「うん♪」
「そうだ!どうせならハリウッドいけるくらい目標を大きくもちなよ♪」
「はりうっど?」
「俺もよくわからないけど……外国にある、おしばいが上手な人たちが集まるところって杏子が言ってた!」
「わかった!僕は『はりうっど』を目指すよ♪きょうすけくんは夢…ある?」
「う〜ん…それが何もないんだよなぁ…」
きょうすけくんは悩みながら答えた。
「そっかぁ…じゃあ今すきなものとかは?」
「好きなことか…いま、おやじにバスケットボールをおそわってるんだ。それがすごくたのしいかな♪」
「じゃぁきょうすけくんはバスケットで1番になりなよ♪」
「…そうだな♪じゃあバスケットで1番になる!今からそれが俺の夢だ♪じゃあ2人ともやくそくだな♪」
「うん♪僕は女優になる…ぜったいに…やくそくするよ!それで『さいかい』するの♪♪」
「わかった!」
それは世間の厳しさを知らない子供同士の単純な約束。でも2人にとっては真剣な、大事な大事な約束だった。
そして僕は恥ずかしがりながら、もう1つお願いをした。