秋と春か夏か冬〜18話『過去と思い出』〜-4
「ううん…気にしないで。高校で再会したあと、杏子さんから事情を聞いたの。キャンプでの記憶がなくなってるって…」
「…あぁ、たぶんあのあとの出来事で…って、違うか。記憶をなくした俺が悪いな…」
「誰が悪いってわけじゃないよ♪それにね、忘れられてたのは悲しかったけど、恭介はあのときの『きょうすけくん』のままで、変わらず優しかったから…。思い出してくれたしね♪」
「時間かかったし、ヒントも貰ったけどな…それに、ネックレスを見せてもらったから思い出させてもらったようなものだし…」
俺は苦い顔をした。
「だから恭介のせいじゃないってば♪でもね…」
夏輝は恭介に近づき、軽くしがみついた。それはいつもの元気な夏輝ではなく、弱々しかった…。
「でもね…僕……夢、叶えたんだよ。『きょうすけくん』と約束したから……また絶対に再会したいから頑張って……さ、再会するために……ひっく……うっ…うぅ…」
夏輝は泣き出した。
その涙は決して悲しいから流れたわけじゃない。歓喜でも…怒りでもない。
言うならば『想い』。
10年分の『想い』だった。
俺は夏輝を抱き締めた。今の俺にそんな資格がないことも、権利がないことも知っている。
でも夏輝の泣いている姿をみたくない……泣きやんでほしい……ただその一心で…。
「夏輝…今更だけど俺はバスケを…夢を…もう追いかけられないんだ。楽しい話じゃないけど、全部……聞いてくれないか?」
「…うん、僕も聞きたい」
俺は全てを話した。大会のこと、事故のこと、そして美雪のこと。
「……ごめんな…」
全部話したあと、俺はもう1度謝った。
夏輝はというと、いまだ顔を下に向けていた。そして…
「恭介…ひどいよ…僕というものがありながら、他の女性に手を出すなんて……」
また泣き出してしまった。
「へぇっ?いや、だ、だからそれは…事故で荒んでたし、夏輝との記憶がなくて…その…」
俺は焦りながら弁解する。そして夏輝は……
「……ははは♪嘘だよ〜♪恭介も辛かったんだね。でもそんな恭介を美雪さんが救ってくれた……感謝しないと♪」
微笑みながら話す夏輝。もういつもの夏輝の笑顔に少しだけ安心をする。
「おまえ…心臓に悪いからそーゆー演技はしないでくれ……」
「だって〜ハリウッドいけるくらいの女優になれって言ったのは恭介でしょ♪いつでも練習だよ♪」
「それはそーだけど、だからって日常生活で練習しなくたって…」
「僕との思い出を忘れた罰♪♪これぐらいで許してあげる♪」
「うっ…」
それを言われると何も言えない…。むしろこのぐらいで許してもらえるなら感謝するべきだろう。