陽だまりの詩 8-6
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太陽は燦々と輝いていたが、思った以上に風は冷たかった。
「……奏、寒くないか?」
「大丈夫です。私がここを希望したんですし」
「…」
繰り返す波の音が声を遮り、時折言葉は聞こえなくなる。
俺たちは海に来ていた。
なぜ奏がここを選んだのかはわからないが、俺は正直、久しぶりの海に感動を覚えていた。
海は好きだ。
行くたびにとても楽しい気分になれるから。
「もうちょっと早く来れば泳げたな」
「もう秋ですもんね」
「奏は海に入りたかったのか?」
「…この足ですし、そんなことは考えたことなかったですね」
「そんなの、俺がおぶって入ればいいじゃないか」
何気ない一言だったが、奏は顔を赤くする。
水着の奏と海で密着…
大変なことになりそうだ…
「まあ、来年は泳ぎを教えてやるよ」
奏は少し考えるような素振りを見せたが、笑って答えた。
「……約束ですよ?」
「ああ」
来年の夏が楽しみだ。
きっと二人で波打ち際まで競走するのだ。
しばらく二人共、無言で海を見つめていたが、奏が口を開いた。
「春陽さん」
「……ん?」
「……寝てました?」
「いや、ウトウトはしてたけど。波の音ってやばいな」
「あはは」
「まるで子守歌だ」
ふと、奏は真面目な顔になる。
「……私、海が好きなんです」
「……」
「海は世界中に繋がっていて、とても壮大です」
「ああ」
「人類だけじゃなく、全ての生物は海から生まれているって、すごいですよね」
「哲学的だな」
ふと、初めて出会った日のことを思い出した。
広大な菜の花畑。
奏は綺麗だと涙を流した。
きっとあの時も、哲学的なことを考えていたのだろう。
顔は見えないが、今も海を美しいと心から思い、涙を流しているのだろうか。
俺はあえて、奏の顔を覗き込もうとはしなかった。