冷たい情愛Die Sekunde-4-11
「紘子が、俺にあのぬいぐるみをくれた日…嬉しかったのに、苦しかった」
大学時代は、それなりに楽しいものだったと彼は言った。
苦しい心も、思い出さないようにすればそれで済むようになった。
仕事で再会し、何も知らない私を見た時には…過去の好意だけが記憶に戻ってきた。
幸い、私は全く自分のことを覚えていない。
だから、触れることが出来たのかもしれない。
自分が何も言わなければ、自分の前で体を開き…
あの頃は決して先生にしか見せなかった姿を、今度は自分だけに見せた。
自分の前で…この私が言うままに体を反らせる。
触れたくて仕方なかった存在が、目の前にいた。
偶然、母校を訊ねたことで、私の口から過去の全てを聞くことが出来た。
しかも自分は何も言わなくても済んでしまった。
「紘子がね、あの時…すごくふっきれた顔になったんだ」
それを見て、自分の長年の後悔が…少しだけ消え去ったのだと言う。
彼もあの時、すごく穏やかな顔をしていた。
初めて私に見せた…
静かで穏やかな顔。
「でも、紘子が俺を好きになってくれても…問題は解決するわけじゃない…」
彼は酷く緊張した顔で、冷めたコーヒーを一気に口に流し込んだ。