冷たい情愛Die Sekunde-3-5
「東京に預けるって決まった日ね、あの子に言われたのよ」
「遠藤くんにですか?」
「ええ、男に依存してへらへら生きてるお前が気持ち悪いって」
もしかして…誰かに依存しなければ…と言った彼の言葉は、母親のことなのだろうか。
「ごめんなさいね、私たちの話ばかりして」
彼女はそう言ったあと、今度は「紘子さんの話も聞かせて」と笑顔になった。
私は、平凡な田舎の家庭に育ったこと、父は仕事ばかりで、母は専業主婦だったこと…妹がいること、仕事のことなど、浅く広く話した。
「今は仕事ばかりで」
「いいのよ、そんな言い方しなくても。女性も仕事をするって立派なことよ」
「ありがとうございます」
「あの子も、絶対そう思ってるわよ、うん」
彼女は、笑顔でそう言ってくれた。
私は話を続けた。
「高校が一緒だと言っても、その当時は遠藤くんのことは知らなかったんです」
「同じクラスにはならなかったの?」
「私のほうが、二つ上なんです」
「あら、見えないわね〜。なら…神崎さんのことも、知っているかしら。何を教えていたか…」
私は、予想外の名前が出てきたことに驚いた。
自分にとって大切だった人の名を、彼女が知っている。
何を口にすればいいのか分からず、私は普通に「確か数学の先生だったかと…」とだけ答えた。
私の反応が薄かったからなのか、彼女はすぐに違う話題を切り出した。
店を出た後、彼女の夫への土産を買い行った。