冷たい情愛Die Sekunde-3-17
私は、ずっと母をかわいそうな人だと思ってきた。
私はああなりたくないとも思っていた。
しかし、それは間違いだったのかもしれない。
母は、主婦として家庭を守りきった。
それが今、凄いことだと思えた。
母がいたからこそ、私も妹も父も祖母も…あんなに暖かい家庭に存在できたのだ。
どういう立場になるかが幸不幸を決めるのではなくて…
気付けば流されていたその場所で、どう人を愛するかがそれを決めるのかもしれない。
「遠藤くんを連れて来いって朝からうるさくて」
「紘子は、俺の母親と会ったこと、話したの?」
「まさか…言ったら『ずるい』って文句言うもの」
「俺、ちゃんと挨拶らしいことしてないしな」
「いいよ、そんなこと気にしなくても」
彼は、言っていた通り運転が上手い。
助手席に乗っていても、とても楽に感じる。
そういえば、彼の運転する車に乗るのは初めてだ。
彼の長身では、少し狭く感じる空間も…それが何故か嬉しい。
彼と家庭を持ったら…
こんな感じで出かけたりするのだろうな…そんなことを思った。
「俺…行ってもいいかな」
「どこに?」
「紘子の実家」
私は、頑なにそれを拒んだ。
さっきまで、あれだけ心の中で尊敬した母親だが…こうなると話は別だ。
彼を質問攻めにし、娘もいい歳だし…と結婚を匂わす話をするに決まっている。
「そういう関係には、しないほうがいい?」
「そういう意味じゃないの。うちの母親がちょっと…」 私は苦笑いするしかなかった。