冷たい情愛Die Sekunde-3-11
「え?もう一度言って?」
私は尋ねる。
「紘子、最近胸大きくなったよね」
彼がシャツの上から胸を触ってきた。
「ちょっと!運転中に危ないってば!!」
「触りたかったんだから、いいじゃん」
彼は、また私をからかって笑っていた。
私のように、平凡に育った者には分からない苦労を彼はしてきたはずだ。
子どもなりに悩んだり苦しんだりしたのだろう。
過去、彼が私を理解してくれたように…今、私も彼を理解できると思った。
分かり合えると思った。
自分だけではなくて、みんな同じなのだろう。
自分が経験する狭い世界の中で、子どもながらに苦しみ悩む。
その幼い頃の経験があるからこそ、他人を受け入れられる大人になれるのかもしれない。
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レンタルのマウンテンバイクを借りて、私たちは公園内をサイクリングする。
公園とはいっても、その敷地はかなりなものだ。
全部回ろうとすれば相当な時間がかかるらしい。
道も平坦ばかりではなく、坂が続く箇所もある。
二人とも、普段の運動不足からか、息が大きく乱れる。
「自転車ってこんなに辛かったっけ」
「昔は飛ばしてたのにな」
横を、子ども用の自転車に乗った小学生たちがどんどん追い越して行く。