ねこ♪ネコ♪小猫♪2-2
昨日の昼食時の事だった。
楠と若山はいつもの様に昼食をとっていた。途中、若山が大声を上げたり、派手な音を立てて立ち上がるから、かなり目立っていた。
しばらくして、若山は学食から走り去ったが、その顔は泣いている様だった。
あいつらでも喧嘩するんだな。と変に関心してしまったが、楠は、傷付いた様に寂しい気な表情をしていた。その顔を見ると俺は決心した。
ヤルなら、今日だ…。
それから俺は第3資料室に行き、計画を実行すべく小道具を揃え、楠が独りになるのを待った。
楠を汚して、傷付けるために…。
ズキン!!
また胸が痛くなる。
本当に自分の行動に腹が立つ。時間を戻せるなら、昨日の俺をぶん殴ってでも止めたい。
もう一度、楠を見つめようとしたら、
ガタン!!
大きな音を立てて若山が立っていた。今日も若山は注目の的だ。
まったく、何話しているんだか。
若山はそぉっと振り返り、俺を見る。
えっ?俺?
条件反射でニッコリ微笑むと、途端に楠の眉間にシワが寄った。楠はこの笑顔が嫌いだ。だか、この場合は仕方が無い。
若山は楠の方へ向き直ると上体を曲げて話してる。楠が頷いた瞬間、
バッ!
っと、若山は俺の方へ振り返り、俺と目が合うなり顔が真っ赤になった。
はっ?
若山が注目されているって事は、若山の視線の先にある俺も注目される訳だ。かなり居心地が悪い。でも、若山がこちらを向いている原因は俺だ。
楠は何話したんだ…?本当の自分を隠している事か?…嫌、違うな…。まさか?!
若山の赤い顔を見て確信する。
俺とセックスした事を言ったのか?!
楠は若山の手を引っ張り、向きを返させようとする。それに気付くと若山は楠の頭をペチンッと叩いて座った。若山が席に着くと、俺に向けられていた視線も無くなる。俺はゆっくり席を立ち、学食を後にした。
楠が俺とセックスをした事を友達に話すなんて思ってもみなかった。
所詮、楠もあの女と一緒って事か…。
軽くショックを受けてしまう。
小学校の時から勉強もスポーツも好きだったから一生懸命取り組んでいた為、俺は気付けば『出来る側』にいた。別に自慢した事も、ましてや鼻にかけた事もない。
しかし中学になると周りの態度が変わっていった。
嫉妬と羨望が混ざった視線。
先生が俺を褒める度、良い点を取る度に、嫉妬は強さを増す。そして羨望の眼差しが寄せられるほど、嫉妬は色濃く力強さを増す。
好きな事に打ち込む事がそんなに良くない事なのか?
完璧に出来れば出来るほど、疑問は膨らんでいく。
妥協すればよかったのだろうか?
いや、妥協すれば達成感は得られない。
俺は考えた末、周りに笑顔で対応する事にした。何を言われてもニッコリ微笑み優しく対応する。
微笑みの『仮面』を着ける事で嫉妬の視線は感じなくなった。しかし、羨望の視線は違う。無くなるどころか強くなるばかりだ。
「小坂って完璧だよなぁ。すげぇよ。」
「優人君って名前負けしてないよね。だって『優れた人』って書くじゃない。もう完璧。」
完璧なんかじゃない。
俺は努力しているだけだ。
なのに、周りは本当の俺に気が付かない。努力しても俺は『完璧』だから『出来て当たり前』と。
いい加減、息苦しくなる。
誰かホントの俺に気付いてよ!