ある男の話-1
じめじめとした夜の道を一人で歩く。さっきコンビニで買ったビールを袋から取り出してプルを開けた。
一口飲んでから街灯を見ると、羽虫たちがたかっていた。
この街に来てから三年が経つ。
旧友達との連絡を絶ってどれくらいだろうか。そんなことも忘れてしまった。
古びた二階建てのアパートが見える。一階の一番端が自分の部屋だが何故か帰る気にはなれず、近くの公園へ足を向けた。
早く大人になりたいと思って、一人で遠方の地を選んだ。
子供でいられる時代は終わりを告げて、みんなは将来に頭を悩ませていた。
野球部のキャプテンだったあいつは、地元の工場に就職して。
皆に愛されていた女の子は、デザインの勉強をすると言っていた。
そんな、急に現れた現実という壁に立ち向かう皆を、俺は見たくなかったんだ。
俺の中では、いつまでもあの時のままの皆でいてほしかった。
上着のポケットから取り出した携帯を開く。昔の友から、ついさっき受信したメールにはこう書いてあった。
「あいつと結婚する」
心が強くなることと、無関心であることは同意義ではないということを知った。
じゃなかったら、こんなに動揺なんてするわけがない。
いつか皆とあの頃を懐かしみたかったから。
例えあの輝きを俺達が失ってしまっても笑っていたかったから。
だから、あんなに辛かった別れを耐えてまで俺はここに来たはずなのに。
本当は、皆と一緒にいたかった。
これからも笑って、泣いて。
あの頃を忘れられぬまま、哀別の感情を感じずに怠惰に過ごしていきたかったんだ。
なんのために俺はここにいる。
あの時泣いていたあいつと、笑いながら手を振ってくれたお前。
俺がそこにいれば、何かが変わったのか。