初恋のハジメ方 act.1-2
「え!?あの……すみません……。」
と反射的に謝ってしまったものの何か違うのではと彼女は思いなおした。だが、助けられてもらった手前と彼女の性格もあり何も言い返せない。
「はっ離せ!!私は何もしていない!!」
と激しく抵抗を見せているおじさんを事も無げにしっかりと捕まえている彼を見ると、細見な見た目に反し、力あることがわかる。
「言い訳はケーサツでしなよおじさん。」
電車が駅に到着しようかというタイミングで彼は言い放った。
おじさんはその言葉にあきらめたようにがっくりとうなだれた。そして、電車が駅に着くと、近くにいた数人のサラリーマン風の男に痴漢のおじさんは取り押さえられながら強制下車。
その集団のなかに先ほどの彼の姿が見えたとき、彼女は急に不安に襲われた。というより、痴漢が捕まり、やっと緊張から開放され今までずっと溜まっていたものがあふれたのだ。
――――《一人になりたくない》そんな思いが彼女をよぎった。その思いが彼女をある行動に駆り立てた。
「ん??」
痴漢を警察に突き出すため電車を降りようとした彼。しかし何かに引っ張られ進めない。何かと振り返ると、さきほどの女の子が自分の制服の袖を掴んでいた。しかも涙目で。
「なっ!? どうしたの!?」
慌ててたずねる彼に彼女はポロポロと涙を流しながら、ただ首を左右に振るだけだった。
――――そうこうしているうちに電車は再び走りだした。
さきほどの騒動もあり、周囲から二人に好奇の目が集まっていた。しかし、彼女の涙は止まらず、そんな彼女の頭を彼はぎこちなく撫でるしかできなかった。
そして次の駅に着いたとき、ただおろおろと彼女をあやしすしかできずにいた彼が動いた。
「ひとまず降りよう!!」
そう言い、まだ涙が止まない彼女の手を引き電車から降りた。
このままでは好奇の目にさらされ続けてしまう彼女をかわいそうに思ったのだった。
電車から降りるとひとますホームのベンチに彼女を座らせると、彼は飲み物を買いに走った。
「少しは落ち着いた?これ、飲みなよ。」
と戻ってきた彼は、ハンカチで涙を拭いている彼女に、買ってきたココアを差し出した。
「あ…ありがとうございます。」
彼女はココアを受け取り、先ほどのことも意味合いに含めて彼にお礼を述べた。