やっぱすっきゃねん!U…E-1
青葉中学の優勝で幕を閉じた秋季大会の翌朝。
「い、急げ…」
朝練を終えた佳代はダッシュで保健室に駆け込むと、ユニフォームを脱ぎ捨て、スポーツバッグからジャージを取り出し、慌てて着替えだす。
「…ふうっ」
着替えを終え、脱ぎ散らかしたモノをバッグにしまうと、安堵したのか水筒のお茶で喉の渇きを潤す。
その時、保健室の扉が勢いよく開いた。
「あら?」
入って来たのは保健教師の葛城だ。彼女は佳代を見つけるなり、掛け時計に目を移した。
「澤田さん。遅れてるわよ」
「エッ! 本当ですか?」
「ええ、後5分で始まるから」
「ありがとうございます!」
佳代は急いで両手と背中に荷物を抱えて保健室を飛び出すと、バタバタと階段を駆けて行った。
「…あらぁ〜…」
葛城は呆気にとられた表情で、その音がする方向を見つめていた。
「ヤバい! ヤバい! ヤバい!」
3階までを一気に駆け上がると、誰もいなくなった廊下を一目散に走り抜ける。教室に飛び込んだのは、ホームルームの始まる直前だった。
「…ま…間に合った……」
絶え々の息を整え、したたる汗をタオルで拭いながら、抱える荷物を後に置こうと向かっていると、
「カヨ! おはよう」
佳代の前席に座る尚美が声を掛けてきた。
「おはよう! ナオちゃん」
佳代は、いつものハツラツとした笑顔で挨拶を返すと、荷物を置いてから席に着いた。
「カヨ。昨日はありがとう」
尚美は振り向き、佳代にだけ聞こえるよう小声で言った。その顔は、思わずつられて微笑えんでしまいそうな笑顔を湛えている。
「で、どうだったの?」
肝心な事を聞こうとした時、教室の扉が開いて担任が入って来た。
尚美は席を立ちながら、
「昼休みに話すから…」
それだけ言うと前を向いてしまった。佳代は彼女の雰囲気から、きっと良い知らせであると確信するのだった。