やっぱすっきゃねん!U…E-9
「…あの〜、これからしばらく、グランドの外周りをジョギングに使わせてもらいたいのですが……」
「それは構いませんが……また、急にどうして?」
永井の問いかけに、葛城は、さも言い難そうに答えた。
「…それは…その…ちょっと体重が……」
その答えに、永井は吹き出しそうになるのを堪えると、
「分かりました。ボールに気をつけて頂ければ」
「すいません。お借りします」
葛城はお辞儀をすると、グランドの端っこをゆっくり走りだした。
あの以来、葛城は夕方6時頃になるとグランドに現れた。
最初、その姿に部員達は困惑していた。と、いうのも永井からは何も聞かされていなかったからだ。
しかし、1週間もすると慣れたようで、葛城の存在を気にする者もいなくなった。
そんな状況が3週間ほど続いたある日。
練習を終えて職員室へと戻る永井を葛城が呼び止めた。
「ああっ、どうです? 効果の方は」
笑顔でジョギングの効果を尋ねる永井に対し、葛城はその事には答えずに、
「先生…コーチの件、どうですか?」
逆に訊かれた永井は苦笑いを浮かべた。
「いやぁ、なかなか…学生の頃にスポーツをやっていた先生達にお願いしてるんですが……」
その言葉に葛城は、躊躇い勝ちに訊いた。
「…あの…」
「はい?」
「あの…コーチですが、私のような女性でも良いでしょうか?」
永井は不思議な物でも見るような視線を彼女に向けた。
葛城には、愛らしい顔立ちと150センチあまりの小柄な体躯もあって、野球はおろかスポーツとは無縁だろうとイメージしていたからだ。
ところが、
「これでも、大学では女子の硬式野球部に所属していたんです」
葛城の言葉に永井は目を見開く。
「…か、葛城先生。野球って…大学はどちらに…?」
「日本体〇大学です」
スポーツの上手いヤツばかりが集まるような大学だ。
永井の期待は一気に膨らむ。
「先生。ちなみにポジションは?」
「キャッチャーをやってました」
ゲームメイクする上で最も重要なポジション。〈灯台下暗し〉とは、正にこのことだと永井は思った。
だが、ここで、ある疑問が浮かんだ。