やっぱすっきゃねん!U…E-8
「先生。なんで知ってるんです?」
「あの…そう。たまたま練習を見てたら、3年生が居たのよ」
言葉を濁した葛城の言葉に、佳代は〈そうだったんですか〉と納得する。
「でも、大変そうね。3年生が居なくなっちゃうと……」
葛城は、なおも野球部の内情を尋ねようとしたのだが、
「え〜…どうかなあ。やっぱり大変かなぁ…」
どうやら、訊く相手を間違えたようだ。彼女は腕時計を佳代に見せて、
「あっ、澤田さん。時間よ」
「ワッ! 本当だ」
佳代はリュックを引っ掴み、慌てて保健室を飛び出して行った。
ひとりになった葛城は、なにやら思案している様子だったが、やがて、それを打ち切ると、再び日誌を書きだした。
「すいませ〜ん」
佳代は大慌てで保健室からグランドに駆け込んだ。が、すでに他の部員達は整列して、彼女を見るなり冷ややかな笑みを向けている。
「遅いぞ! 澤田」
久しぶりの怒鳴り声が前キャプテン川口信也の口から飛んだ。
(だから早く来たかったのに…)
遅れれば、信也に口やかましく怒られるのは解っていた佳代は、つい葛城とのお喋りをした自分自身を悔んだ。
「何をしていたんだ?」
問い質す信也に対し、佳代は帽子をとって頭を下げる。
「すいません! 着替えに手間どっちゃって…」
「オマエはチームの最上級生だろう? それじゃあ、下の者に示しがつかないぞ」
「ハイッ! すいませんでした」
再び頭を下げる佳代。神妙な面持ちを信也に向けて、列の中へと加わった。
練習を開始してからどのくらい経ったのだろう。とうに日は沈み、照明塔の光がグランドを眩ゆく照らす頃、見馴れない姿がグランドに近づいて来るのを佳代は見逃さなかった。
「…あれって…葛城先生?」
葛城は白衣をジャージ姿に変えて永井の元を訪れた。
「どうしたんです?葛城先生」
困惑した表情の永井に、葛城は照れた様子で話を切り出した。