やっぱすっきゃねん!U…E-7
早朝。職員会議。
いつもはほとんど発言しない永井が、会議の終了間際に手を挙げた。
「どうしました?永井先生」
教頭の野田は、珍しい発言者に優しく声を掛ける。対して永井はイスから立ち上がると、職員室に散らばっている教員達を見渡して、緊張の面持ちで声を挙げた。
「…皆さんの中で、野球部のコーチを引き受けて下さる方は、いらっしゃらないでしょうか?」
それまで、思い々の発言が飛びかっていた職員室は、水を打った様に静まり返った。
どうやら皆、あまり関わりを持ちたく無いらしい。
「永井先生。理由を教えて頂けませんか?」
あまりの雰囲気の変わりようが気の毒に思えたのか、野田が助け船を出す。
「…現在、指導者が不足してまして、引退した3年生に手伝ってもらって成り立っている状態でして……」
永井は堅い表情のまま、野球部の現状を皆に伝えていく。
「…高校受験を控えた彼らに、これ以上、負担を掛け続けるのは……」
「しかし、臨時コーチがいらっしゃるのではないですか?」
「ええ、藤野一哉氏にお願いしていますが、彼は教員ではありません。ですから、平日は練習に来れませんし、大会でもベンチ入りすることも出来ません。
そうすると、私ひとりで全てをこなすのは到底無理です。ですから、このままでは、チーム力が低下してしまうんです…」
永井は思いの全て吐き出した。野田は話を聞き終えると、腕組みをして考え込んでしまった。
「今すぐとは言いません。来年度からでも結構です。どなたか、引き受けて頂けませんか?」
永井の必死な訴えだったが、職員達は話が終わると散り々に部屋を後にした。
彼の思いは、ただ虚しく響いただけだった。
ー放課後ー
保健室で日誌を付ける葛城は、ドタドタと近づく音に思わず笑みがこぼれた。
(…来た来た…)
「失礼します!」
そこへ飛び込んで来たのは佳代だ。彼女は葛城を見て一礼すると、慌ただしく奥へと入って行く。
「いつも大変ね」
葛城は佳代が入っていったベッドの方に声を掛ける。
「…遅れると、怖いんですよ」
そう答えてカーテンを引くとユニフォームに着替え始めた。
「ところで、3年生が教えに来てるの?」
職員会議で永井の言ったことが気になった葛城は、佳代に尋ねてみる。
「そうです。毎日、交替で2人づつ指導に来てますけど…」
カーテンが開き、着替えを終えた佳代が現れた。