やっぱすっきゃねん!U…E-4
引退式
「本日、3年生は引退します」
永井は感慨深げに語り始める。
「…私が青葉中学野球部にコーチとして招かれた時、ちょうど彼等は新入部員でした。当初、21人でしたが、2年半経った今、14人が厳しい練習に耐えて最後まで野球部に残ってくれました。
これから、貴方達には、幾多の試練が待ち受けているでしょう。その時、ここで培われた精神力が、必ず生かされるモノと思っています」
永井は帽子を取り、改めて3年生の顔を見る。その顔は達成感に溢れた、実にいい笑顔だ。
「本当にお疲れ様でした……」
挨拶を終えた永井が帽子を取って頭を下げると、合わせるようにて3年生達も深々と頭を下げた。
1、2年生達は上級生の引退に、労いと感謝の拍手を送り続けた。
引退式を終えて、解散しようとした時、信也が手を上げた。
「監督。今後の事なんですが…」
「どうした?」
永井は訊き返す。
「出来れば、これまでのように練習に参加させてもらえませんか?」
永井は戸惑いの表情を見せた。
「…それは有難いが、オマエ達にも高校受験の準備が有るだろう?」
「ですから、当番制で1日2人が練習に付き添えば、中6日で週1回の参加になります。そのくらいなら、大した負担になりません」
「…しかし……」
信也の提案になおも戸惑いを見せる永井。その時、そばに立つ一哉が言った。
「監督。お願いしましょう。彼等が自分達で決めたんですから」
「…そうですね…」
永井は頷くと信也の方を見て、
「じゃあ、すまんが頼む」
「ありがとうございます!」
こうして、3年生は指導者として残る事となった。
「…しかし驚きましたよ。信也があんな事を言い出すなんて…」
練習を終えた永井と一哉は、職員室のソファに腰掛けて休憩を取っていた。
イスに持たれ掛りながら胸中を漏らす永井。対面で聞いていた一哉の顔には笑みが浮かんでいる。
「彼等なりに野球部の将来を考えての事でしょう」
永井が怪訝な表情を浮かべた。
「野球部の将来…ですか?」
「そうです。自分達が居なくなれば、監督の負担が増えると考えたのでしょう」
「…確かにそうですが、だからと言って引退する部員達に負担を掛けるわけには…」
堅い表情の永井。一哉の顔からも笑みが消えていた。