やっぱすっきゃねん!U…E-3
すると信也は、さも、言い難そうに、
「…あの…オマエの友達の安田さん…どんなだった?」
「どんなって?」
佳代は言っている意味が分からない。信也は頬を赤らめ困った顔だ。
「…その、いつもと変わらなかったか?」
さすがの鈍い佳代にも、信也の言わんとする事が分かった。
ニヤリと笑う佳代。その顔は何か企んでいる。
「ええ。朝からずっと塞ぎ込んでて…時々、涙ぐんだりして…」
佳代は内心ほくそ笑みながら、わざと悲しそうな顔を作って答える。それを見た信也は、冷静さを失ってしまった。
「…そうか…そりゃ、そうだよな…」
一人、頭の中で納得する信也。彼は独り言のように佳代に言った。
「やっぱりキチンと謝らなきゃな…」
この言葉に佳代は反応する。
「なにを謝るんです?」
「なにって…オレはあの子が傷つく事を言ったから……」
「…それ、尚ちゃんが可哀想ですよ」
言葉の意味が分からない信也。
「どうしてオレが謝ったら可哀想なんだ?」
「だって、尚ちゃんは忘れたいようだし。そこにキャプテンが行ったら……」
信也はようやく言葉の意味を理解した。
「…なるほどなぁ…」
ひとり頷く信也。
それを見て呆れた佳代。野球ではいつも冷静な判断をしているのに、恋愛となると、年下の自分でも分かるような事が分からないとは。
(…やっぱり兄弟似てるわ。野球バカで他の事は疎い……)
信也は一人、納得したのか〈じゃあ、この件は終りだ〉と言って、佳代の前から立ち去って行った。信也の姿をしばらく眺めていた佳代は、思い出したようにトンボを抱えてグランドへと戻って行った。
空は薄暮から闇へと移りつつあった。
しつこく居座っていた夏の名残もようやく失せて、まさにスポーツにふさわしい季節が訪れた。
その日曜日の夕方。練習を終えた野球部は整列していた。
監督の永井の後には、ズラリと3年生が並んでいる。