やっぱすっきゃねん!U…E-10
「先生。ひょっとして、ジョギングされてたのは?」
すると、葛城は再び照れた表情を見せる。
「はい。私も野球を辞めて5年になりますので、教えるなら、まずは体のキレを戻そうと……
それに、野球部の現状も確認したかったので……」
永井は大きく頷いた。
葛城は言葉を続ける。
「…それで、練習風景を見ていたら、澤田さんに昔の自分が重なって……」
「澤田に…ですか?」
「はい。私が中学、高校の頃には野球部に入部することが出来なくて、仕方なく中学はバレー、高校ではソフトボールをやったんです。
でも、どうしても野球が諦められなくて、ようやく、大学で野球部に入れたんです。ですから、今、野球の出来る彼女を応援したくて……」
思いを綴る葛城を、永井は柔和な顔で見つめていた。
「先生…コーチの件、お願い出来ますか?」
葛城は大きく頷く。その顔は晴れやかだ。
「分かりました。宜しくお願いします。永井監督」
夜風が冷たさを増していく中、季節は晩秋から冬へと向かっていた。
「日〇大、女子野球部のキャッチャー?」
「そうなんです。私も驚いたんですよ」
葛城と分かれて帰宅した永井は、早速、藤野一哉に連絡を入れた。
「それで、明後日、土曜日から来て頂くようにお願いしたんです」
饒舌に語り掛ける永井。一哉には、彼の喜びあふれる顔が容易に想像できる。
「…よかったですね。これで、安定したチーム作りが出来ますよ」
かくいう一哉の顔も、笑みが漏れていた。
ー土曜日ー
うすい曇が空一面を覆い、冷たい空気が辺りを包む。グランドの端に植えられた銀杏も、すっかり葉を落としていた。
「整列!」
3年山崎の号令に合わせ、下級生達が姿勢を正す。彼らの前方、永井と一哉のとなりには葛城が立っていた。
部員達は不可解に思っていた。平日の夕方でなく、土曜日の朝に会うのは初めてで、そのうえ、葛城は少しくたびれたユニフォームを着ていたからだ。
その思いを払拭するように、永井の挨拶が始まった。