桜が咲く頃〜不安〜-1
ここは大笑(おおえ)。
沢山の人が集まる街。
この国の中心部。
『り〜ん、ご飯にしよ〜』
そう言われて障子を開けた人物。
名前は鈴(りん)
小柄で、手足は細いのに剣術は強い。
いつも男物の服を着て、自分のことを、俺と呼ぶが、女である。
ちなみに鈴とは、以前仕えるていた主が付けた名である。
二人分の膳を持って鈴の部屋に入ってきた人物。
名前は矮助(あいすけ)
この国の中心人物、福永家に古くから仕える名家、山村家の次期当主である。
この二人は大野という人物の護衛をしていて知り合った。
ある日、矮助は鈴が女だということを知る。
その後鈴は、風邪をひいて寝込んでしまった。
そんな鈴を看病していたのは矮助。
鈴はそのことに気付き、はじめは警戒していたが、次第に心を開いていく。
山村家は福永から、大野が怪しい動きをしているので調べて欲しいと頼まれる。
そこで、矮助が護衛として潜り込んでいた。
仕事を成し遂げた矮助は、寝込んでいた鈴を連れて自分の屋敷に戻り、看病を続けた。
そのかいあって鈴は元気になり、屋敷を出て行くと言ったとき、矮助は一枚の紙を差し出した。
そこには、請求書満金30枚と書かれていた。
鈴の看病代(宿泊代、食事代、薬代等々)らしい。
鈴は、一度は憤慨したものの、世話になったのは事実、と払うことに決めたとき、財布がないのに気付く。
払えないのを知った矮助はある提案をする。
『これから30日、俺の護衛として働いて貰おう』
1日満金1枚で鈴を雇おうというのだ。
鈴は初め、拒否した。
だが
『鈴、前に
[護衛する人物がどんな奴だろうと関係ない。
金さえ貰えればそれでいい]
って言ったよな?
じゃあ、俺の護衛をしてもいいんだろう?』
確かにそう言った鈴は言葉に詰まる。
矮助は続けて条件を出す。
その1、払いきるまで山村家にいること。
その2、山村家で働いて稼いだお金しか受け取らない。
その3、この条件は場合により増える。
というものだった。
鈴は諦めて矮助の護衛をすることにした。
ところで、鈴の財布がどこに行ったかというと、実は、矮助が隠し持っている。
なぜなら、こうすればよその護衛として働き、その間女だとばれないよう気を使う必要はないという矮助の思いやりなのだ。
しかし、そんな思い鈴は知るはずもなく…
また、矮助の鈴と離れたくないという想いも含まれていることは、まだここだけの秘密である。