恋愛する条件-1
「ねぇ、恋愛する条件ってなんだと思う?」
高校の卒業式。僕は卒業式を終えた後、何故か屋上にきた。
そこに彼女、澄川がいた。僕はフェンス際の彼女に近付き、『卒業おめでとう』と言ったんだ。
その返事が、これ。
恋愛する、条件。
「そんなの、考えたこともないよ」
だよねと、彼女は微笑み、校庭を見た。
「じゃあ、今考えて」
彼女は僕と同じ生徒会の一員だった。僕は生徒会長で、彼女は書記。
仕事のできる人で、誰よりも学校の力になったんじゃないだろうか。
とても美人で、頭が良くて、人気のある人だった。
「そうだね…」
僕はいたって普通。いや、普通より下なのだろう。
高校三年間、勉強しかした覚えがない。女の子と付き合ったこともない。
そんな人間が問われた、『恋愛する条件』。
わかるはずもなく、並べたのは…
「誠意じゃ…ないかな」
陳腐でどこにでも溢れた言葉。
案の定、彼女はクスッと笑った。
「誠意、誠意ね。安井らしいわ」
安井とは僕のことだ。
僕らしいとは、きっと糞真面目でお堅い僕の性格のことだろう。
多分、これは短所だ。
変えたくても変えられない。積極的に、動けない。
「私ね、東京に行くんだ。東京の大学受かったから、来月から一人暮らし」
「そうなんだ。おめでとう」
きっと彼女ならどこでもやっていけるだろう。
それに比べ僕は、僕は……。
「安井は、どうするの?」
彼女はそう言うと、フェンスに背中を預けた。
「僕も、東京に行くんだ。東京の会社に就職できたから、来月から社会人」
大学には、行く気はなかった。
何故かはわからないけど、きっと学校から離れたかったんだ。
彼女は『そっか』と口にして、黙った。
春の風が吹く。
僕が二年前から育てた思い。
釣り合うわけがないと諦めた、恋。
今なら言えるかも知れない。
恋愛する条件は、誠意と言ったじゃないか。
「同じ東京なら…一緒に住まないかい?」
「………は?」
や…やっちゃった?
「ぷっ…!あははははっ!!」
へ…?
「誠意とか言ってるわりに、いきなり同棲のお誘い?」
う…。
僕は彼女を見た。彼女は少し顔を赤くしている。
「ずっと…好きだったんだ。澄川のことが…さ」
彼女は微笑んだ。それは今まで見た中で、一番綺麗だった。
「さっき言った恋愛する条件。私の中で答えは出てるんだ」
彼女は僕に近付く。
「『自信』と『勇気』、だよ」
彼女は続ける。
「どんなに好きでも、自信が無いと前に進めないし、勇気が無いと告白できないでしょ?だから、今安井の出した勇気は、素敵だと思うよ」
勇気…か。
それが澄川の思う、『恋愛する条件』。
「私も、安井のこと好きなんだっ。安井は自分に自信が無いかもしれないけど、私は安井のいいところ、ずっと見てきたから」
彼女は僕の手を握り、言った。
「一緒に住もうか。家賃とか浮くし、安井は家事とかできないの知ってるし」
これは…夢か?
あまりに突然で、頭がまわらない。
「これからよろしくね?」
「あ…あぁ」
「わかってる?安井は私の彼氏なんだから、自信持ってよ?」
わかってる。だって、それは…
「『恋愛する条件』、なんだろ?」
彼女は満足そうに頷いた。
終わり