ヒメゴト〜confusion〜-1
会社の最寄り駅の男子トイレに置き去りにされてから数分…
麻衣子はまだ立ち上がる気配も無く、
まして股間からだらしなく垂れている液体を
拭き取る気力もなかった。
乱暴に犯された肉体を立て直すには、
未だ時が足りなすぎる。
息は整ってきたが、身だしなみを正す事がとても億劫だった。
けど帰らなくては…。
鉛の様に感じられる身体をよじり、
ガラガラとトイレットペーパーを巻き取る。
自分の股間にそっと当てると、
男の性の臭いが鼻を付く。陽介が果てた証を拭い、
大きく溜め息を吐いた。
その時麻衣子はハッとし、動きを止めた。
隣の個室でガタガタと物音がしたのだ。
麻衣子の顔から血の気が引く。
見ず知らずの男性に
自らの痴態を声だけとはいえ、
晒してしまったのだ。
陽介との情事に夢中で、
そして隣の男性の存在が興奮をたかぶらせ、
こんな所で絶頂に達してしまった。
麻衣子は動きを止めたまま耳を澄ます。
(まだ居る…。どーしよー…、出られない…。)
隣の男性は麻衣子が出ていくのを待っているのか、
先程の物音以来、
全く微動だにしていない様だった。
隙を付いて出ようとしたが恐怖が勝ってしまい、
麻衣子は途方に暮れた。
その時、ガチャと個室のドアが開く音がした。
ほっ、と胸を撫で下ろし、麻衣子は帰り支度をしようと動きかけた瞬間、
ダンダンダン!
ダンダンダンダン!
強い力で麻衣子が居る個室のドアを叩き付けている。
恐怖で身がすくむ。
数センチの距離に、
見ず知らずの男性が、
出て来いと言わんばかりにドアを叩き付ける。
麻衣子は思わず両手で耳を塞ぐ。
早く諦めて帰って欲しい、と淡い期待を抱きながら。
「お、俺にも、お…おま○こ、さ…させろよぉ!」
しどろもどろではあるが、ドスの効いた大声を上げ、麻衣子を更に追い詰める。
(やだ……。早くどっか行ってよぉ…。)
必死に耳を塞ぐが、
恐怖で涙が頬を伝う。
(怖いよぉ…。西田くん…どうしてこんな所に…)
「てめぇ!何してんだ!!」
今までの音を一蹴するかの様な声。
耳を塞いでいた手を思わず離した麻衣子は、
声の主に気付いた。