冷たい情愛Die Sekunde-2-8
「ああ、俺…うん、うん…まあ…」
彼は、言葉少なく母親と会話している。私に聞かれているのが少し気まずいようだ。
「え?今から?無理だって…」
「何いってんだよ」
「違うけど…相手にだって、都合があるし…」
暫く会話が続いた後、遠藤くんが電話を切り、深いため息をついた。
「ごめんね、私勝手に電話出ちゃって…」
私は必死に謝った。相手の携帯に出るなど、最低なことだ。
「何言ってるの。紘子に知られちゃ困る着信なんてないよ」
彼は、優しく笑って言う。
その笑顔は…いつもと同じ、私にだけ優しい彼の顔。
「お母さん1人、置いてきちゃったの?」
「ちょっとね、喧嘩したんだ」
彼が母親と喧嘩するなんて、想像が出来ない。母親の前では、こんな彼も子どもなのだろうなと思った。
「それじゃ、早く帰ったほうがいいんじゃない?」
「それが…」
母親が、私も連れてくるように言ったらしく、彼は少し不機嫌になった。
「気にしなくていいから。母さんも今日の夕方には勝手に家に帰るよ」
「でも…わざわざ来るなんて、何かあったんでしょう?」
「まあ…ね。でもいいんだ。大丈夫」
「私…お母さんに会ってみたいな…」
私はそう、小さく呟いた。私は彼のことを何も知らなかった。
今日はひょんなことから、彼の母親と言葉を交わした。
彼の母親に気に入ってもらえるか自信はないが…話して、彼のことをひとつでも多く知りたかったからだ。