『無題』-3
家に帰って今日あった事を反芻した。
何があって何がなかったのか。誰が何でどうなったのかを何度も、何度も。
それが終わった時、総てが晴れ晴れとした。渦巻いていた何もかもが今は遠く、嵐の過ぎた青空のように寂しささえ伴った無音の心で僕はいた。
制服を着替えて、その日一度も開かなかったカバンを置く。と、カラリと音がした。
それは最初リップクリームかと思った。
形状も似ていたし、それならアキが持っている事も納得できたからだ。
でも、キャップをあければ間違う事なく、それは口紅だった。
戸田ナツミに貰ったのか、自分で買ったのかはわからない。けれど大事なのはそこじゃない。
眉毛も整えていないようなアキが口紅を手にしていたのだ。化粧をしたいと思ったのだ。
「アキちゃんは変わってきてる」と白瀬は言った。
僕はその変化がアキに幸福をもたらすように願った。
そして結局、その日が僕の最期となった。