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恋の奴隷
【青春 恋愛小説】

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恋の奴隷【番外編】―心の音H-1

Scene9―お嫁さん候補!?

「わッ!懐かしい!」
「でしょ〜?葵ちゃん別人よね〜」
「そんなん見たってつまんねぇじゃん」

乾いた笑い声のあとに訪れた沈黙。そんな気まずい空気に耐え兼ねて、朱李さんがノロの幼い頃のアルバムを取り出してきたのだ。
アルバムの中に収められた写真達に、私の表情も次第に綻んでゆく。黒淵眼鏡にぽっちゃり体型の少年と、私の隣で顔を真っ赤に染め上げている男の子を見比べて、私はついつい吹き出してしまう。

「ほんっとノロってば違う人みたい!」
「あの頃の葵ちゃんは母親の私でも我が子か疑ったくらいだわぁ〜」
「ひ、ひでぇ…」

まぁ確かにお世辞にも美形だね、なんて言えたものではなかったけれど。朱李さんの容赦のない発言にノロの顔色はみるみるうちに青ざめて、言葉を失っているわけで。思いの外、ダメージは大きいようだ。

「私ね〜女の子が欲しかったのよ。でもほら、うちには男の子だけじゃない?だから名前だけでも女の子みたいな名前にして、お洋服も女の子物とか着せてみたり…」

朱李さんはそう話しながらアルバムを1ページめくって、私はぎょっと目を丸くした。可愛いらしい花柄のワンピースを身にまとい、今にも泣き出しそうな顔をしているノロの写真が、開くと早々に飛び込んできたのだから。

「うあぁっ!?ス、ストーップ!!」

ノロは血相を変えて身体を乗り出し、アルバムを奪い取ろうとするが、朱李さんはそれをやんわりと払いのけた。

「私が見せたいのは葵ちゃんじゃないわよ」

煙たそうに顔をしかめて、しっしっと手の平で追い払うそぶりに、ノロはすっかりふてくされてしまって。けっ、と悪態をついて床に胡座を掻き、膝の上で頬杖をついたまま、そっぽを向いてしまった。
しかし、朱李さんが言うようにそこのページからはノロの弟―葉月君の写真ばかりが色を添えていた。そのどれもが、私が知っている“葉月ちゃん”だった。女の子が着るような可愛いらしい洋服を着ているのだ。ううん、着せられていた…。この表現の方がきっと適切だろう。だって、その一枚も笑顔の写真なんてなくて。むしろ、感情なんてまるでない。子供独特のあどけさがすっかり抜け落ちたその冷たい表情に、ぞくりと寒気立つ。

「葵ちゃんじゃあ少し太りすぎててイマイチだし。葉月ちゃんはお人形さんみたいでしょ?良く似合ってたわぁ」
「で、でも…この写真の葉月君、全然笑ってなくて怖いです」
「そうなのよ。昔からあの子って感情を表に出すことが苦手でね。本当は嫌なんだろうな、って気付いてなくはなかったんだけど…私が喜ぶものだから、余計言いずらくさせてしまったのね」

伏せ目がちにそう話す朱李さんは、なんだか少し寂しそうだった。

「私も…葉月君は女の子だと勘違いしてました」
「男の子なのにね。私も軽率だったわ。私の願望だけであの子の意思を無視してきたんだから。私がいけないの…」

その場を和ませるはずのアルバムは、その役割を果たさずに、より一段と空気を悪くさせてしまったようだ。

「おいおい!二人ともさっきから俺の存在無視し過ぎ!腹減った〜。飯にしよーぜ?」

私達の間に再度訪れた気まずい沈黙を破ったのはノロだった。その言葉に、物思いに耽っていた朱李さんはハッとして、勢いよくソファーから立ち上がった。


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