『本当の自分……』-10
弥生はいつも俺の事を見ていてくれた。そして、すぐ傍に、こんなにも自分を思って心配してくれる存在があったなんて……。俺、ううん私は目頭が熱くなるのを感じた。私は、ゆっくりと両手を弥生に向かって伸ばす。
「弥生……ありがとう。あなたと知り合えて、本当によかった。あなたは私の大切な親友よ。だから、こっちに来て……。」
その言葉が引き金になったように、弥生が走って来る。そして、私の胸に飛び込むと声を上げて泣き始めた。
「ごめんなさい……由佳ぁ……あたし……もう、どうしていいか……わかんなくなっちゃって……あたし…あたし!!……」
胸の中で泣きじゃくる弥生が、とても愛しい……。震える小さな身体を抱き締めて、私はそっと優しく髪を撫でた。
「私こそ、ゴメンね。でも、話せなかったの……。あなたにまで、あんな目で見られたら耐えられそうになかったから……。だから、このまま全部終わりにしようって思ったの……。」
孤独には慣れている。ううん、慣れるしかなかった。蔑(さげす)み、嘲(あざけ)り、中傷……そして、憐(あわ)れみ。それらから自分を守る為には、孤独でいるしかなかった…。
「やだよ……。由佳が死んじゃうなんてやだよぉ……。だって、由佳は由佳だもん。あたしはそれだけでいいんだから……」
私は私のままでいい……。本当にそうなんだろうか?けれど、私の為に泣いている弥生は、嘘を言っているようには思えなかった。
「あなたを信じていいの?弥生。」
「ずっと傍にいるよ……。由佳が信じてくれるなら。」
私は、どれほどその言葉を願っていただろう……。
自分に絶望しながらも、どれほどその言葉を渇望していただろう……。
「まだ、死にたい?必要とされてないって思う?」
圭子さんに優しく尋ねられて、私は首を振る。
「もう少し頑張ってみます。弥生が傍にいてくれる限り……。圭子さん、あなたが見守ってくれる限り……。でも、圭子さん……なんで今日会ったばかりの私の為に、こんなにしてくれたんですか?」
そう、私はそれが不思議でならなかった。私が尋ねると彼女は少し照れたように微笑む。
「それはね、あなたが私の彼に似てたからよ。修一も一人で抱え込んで、こっそり泣くような子だったから……。リビングで声を押し殺して泣くあなたを見ていたら、放っておけなかったのよ。」
そう言って笑う彼女の顔は、とても幸せそうで羨ましかった。私にも、いつかあんな笑顔で笑える日が来るのだろうか……。笑う事を許してもらえるのだろうか……。
すると、ちょんちょんと服を引っ張られ、下を向くと弥生が見つめていた。
「由佳……お姉ちゃんとキスしてたでしょ?あたしにもして……」
弥生の言葉に私の顔は一瞬で赤くなる。
「バババ、バカ!お前、何言ってんだよ!あれは、その……あの……」
動揺した私は、つい男言葉で答えてしまう……。そんな私の頭を優しく抱き締めて、微笑みながら彼女は言った。
「由佳、気付いた?あなたの中にヨシキはいるのよ。由佳とヨシキ……どちらもあなたなんだから。でもね、いつか二人は一つになって……そして、本当のあなたになる……。私はそう思うの。」
彼女の言葉に私は目を閉じて頷いた。
本当の自分……。今はまだ分からないけど、いつか答えに巡り会うまで、もう少しだけ頑張ってみよう。
そして、ほんの少しだけ自分を好きになってみようと私は思った。
ToBeContinued