Weakness-1
『春だ…』
『……ん?』
満開に咲いた桜を見ながら呟いた私の声で、椅子に座りベッドに突っ伏して眠っていたハルが、まだ眠たそうに目を擦りながら体を起こした。
『呼んだ?』
首を横に振って、桜を指差す。ハルは不思議そうな顔をしながら私の指差す方に視線を向けて目を細めた。
『もう、春だなって』
『そっちの春か』
ハルは優しく笑って、立ち上がると窓を開けた。
外の暖かい風が気持ち良く吹き抜けて、病室の中に春の匂いを運ぶ。
『お花見したいね』
『聞いてみようか?』
『…ううん、いい』
ここにハルが来てくれるだけで、今の私は十分暖かい気持ちになれる。
『好きだな…“春”暖かいし』
『あぁー、お前寒いの嫌いだもんな』
クスクスと笑うハル。
気づいてほしいけど、
気づいてほしくない。
困らせたりはしたくない、このままでいい。
縛り付けてしまいそうだから、ハルは昔から優しいからきっと、こんな私の頼みを断れない。
『俺は夏が好きだけどな』
『海にバーベキュー、花火、スイカ、虫採り?』
『虫採りはもうガキの頃に卒業したつぅーの』
『“夏”が好き』
と言う言葉に、違うと分かっていてもドキドキしてしまう。
『“ナツ”まだ時間あるし、少しは寝とけよ、』
『…うん』
こんな私だから、と自分の弱い部分のせいにして素直になれないただの臆病者。繰り返し過ぎてゆく何度目かの春。
この手術が成功したらちゃんと伝えよう、
“ハル”が好きだと…
END