夏の日、残像-1
『殺すんじゃない生かすんだ』
キミは笑い泣いて微かに、でも力強く呟きました。
カランコロン、
夕暮れ霞む夏蝉の、必死の鳴き声が聴こえる。
祭りの音と花火の匂い、満点の星空の下を歩く君の足。
爪先に入った砂利屑がこびり付いて取れなくて、茶色く染色されていた。
「はは、汚くなっちゃった」
「そりゃー…そうだろ」
その指が、余命狭しと泣き喚く蝉を捕まえ土へと埋めている。
「殺すんじゃない生かすんだ。」
僕には言っていることがよく理解できなくて、ただただ君の儀式を憮然と眺めていた。 蝉の流れを背反していく君の指。
祭りの帰り、花火を燈して蝉を見つけた君は嘆いた。
「一週間の命なんて、蝉はきっと知らないんだろうね。蝉は本当に啼きたいのかな。本当は違うことをしたいんじゃないのかな。でも、その方法を知らないんだ。だから必死に啼くんだよ」
やっぱりよく分からなかった。君の言うことは、いつもよく分からない。
それは単に僕が馬鹿なのかそれとも君がイカれてるのか、どうにも僕は判断できないでいる。
「あっけねーなあ…」
「…そうだね」
のけ者みたいな蝉の姿。
一匹埋めた所で鳴り止まない蝉時雨。
それでも君は満足そうに僕に向かって笑い掛けては、背中をもたげて微かに泣いた。
線香花火は消えたけど、君の思いは消えやしない。
君の純粋なこころは蝉時雨さえも霧雨に変えてしまうだろう。
少し寒い初夏、満点の空の下僕らは少しだけ笑って泣いた。
あの夏の日は残像となり、僕のこころに今でも微かな明かりを灯して残っている。
end.
アジカンさんの曲名だけお借りしました.