陽だまりの詩 6-7
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アキは一つ年上で、大人っぽいんだけどいたずら好きな、子どものような性格だった。
付き合い始めた理由は、親父っさんが別々で飲んでいた俺達に声をかけ、無理やりくっつけさせた感じだったが、俺達は異常に相性がよかったらしく、急速に親密になっていった。
毎日が楽しかった。
アキは甘えてきたり、甘えさせてくれたり、一緒に笑ったり、一緒に泣いてくれたり。
本当に俺にはアキしかいないと思っていた。
家の事を話したときも、すごく理解してくれて、支えてくれた。
そうか、最後に家の事を話したのはアキだった。
アキを病院に連れて行くと、美沙も懐いてくれたし、本当に俺はアキと結婚したかった。
だが二人は思いもよらない事態に引き裂かれることなる。
その頃になると、美沙が入院している間は俺のアパートで一緒に暮らしていた。
そんなとき、家に電話がかかってくる。
俺が取ると、アキの父親だった。
どうやって番号を調べたのかはわからないが、アキに代わってくれと頼まれて、疑問に思いながら受話器を渡した。
あの時、アキはいない、としらばっくれておけばよかったのに。
数日後、アキは俺に別れを告げた。
理由は、アキの両親がやっていた旅館の女将である母親が倒れたので、若女将として大至急帰ってこい、ということだった。
アキの実家は遠く離れた地方にある場所だった。
帰ればずっとその旅館で働かなければいけない。
引き止めるつもりだった。
だが、そうすることはできなかった。
アキと母親の関係のように、俺には美沙がいる。
大切な家族が苦しんでいる時に、その場に残るなんてできないから。
俺が逆の立場でも、必ず帰っている。
母親が倒れたアキ。
妹が入院している俺。
お互い、自分の大事なものを捨てることはできなかった。
別れてから数日間、俺はこの居酒屋に入り浸っていた。
もちろん、アキのことはまだ大好きだった。
しかし、親父っさんから衝撃的な話を聞かさせられる。
旅館にはアキの見合い相手がいて、もう結婚の話まで決まっていること。
最初はテレビドラマじゃないんだからそんなこと現実にありえないと思った。
でも、いつも親父っさんの言うことは正しかったから。
そこで俺は完全にアキを手放してしまった。